最後に会ったのは三か月と四日前。空港で、それじゃあと手を振ってそれっきり。
電話を貰ったのが二か月と十二日前。数多を話して最後に、仕事の関係で、しばらく電話は出来ないと付け加えられて、それっきり。
メールを貰ったのが二十九日前。違法漁を行う業者を取り締まる関係で、しばらくメールもできなくなると、書かれていたのでそれっきり。だけど、最後に、手紙を送るから、と付け加えられていた。
それから毎日、僕はポストから音がするのを待った。来ない日もあれば、全く別の手紙が届く日もあったけれど、それでもいつかくる紙束を、心待ちにしていたのだ。
最後のメールが届いて三十一日目。とうとう望んでいた物が、僕の所にやってきた。親愛なる、から始まったそれには、彼が撮ったらしい、海の写真もついていた。
『―― それから、もう一つなんだが……』
最後の一枚の、終わりから数行前の文章を読み始めようとしたその時、玄関のチャイムが鳴った。読みたいのに、と不満を覚えながらドアを開けた瞬間、僕の時間が完全に止まってしまった。……海の様に青いボディ、大きくて分厚い掌、堀が深く、明るさが詰まったその顔。……何度も会いたいと、願ったその人が、笑顔でそこに立っていてくれたのだ。
「よお、ポンプ、久しぶりだな! 手紙に書いた時はちょっととれるかわからんかったが、なんとか休暇がとれたんだ! 元気にしていたか?」
大好きな掌で肩を叩かれ、張りのある声で言われた内容に、僕は思わず目を丸くする。ダイブさんに断って、部屋に残したままの手紙を読み返す。
『仕事の最後に、お前の住んでいる国に寄港する事になったので、なんとか休暇を取って会いに行きたいと思っている。期待させるだけになってしまうかもしれないが、とりあえず頭の片隅に置いておいてくれ』
最後の言葉に胸の中が一杯になる。僕の素振りに気づいたか、ダイブさんは少し申し訳なさそうな顔を作った。
「……もしかして、手紙が今届いたか? ……すまなかった、ちょっと事情の悪い所から出したもんだから、そのせいかもしれない」
謝るダイブさんに、僕は首を大きく横に振る。
「いいんです。……嬉しい事が二つも起きて、幸せです、僕」
目の前の腕に甘え、顔を綻ばせる。ダイブさんは甘えたな僕に、優しく笑ってくれたのです。
終わり
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