・潜水と泡の会話
・ほんのり潜水喞筒、泡潮(ただし喞筒、潮さんは名前出てません)
・水中用ロボットの周囲の状況が勝手に捏造されている
[0回]
頭の潜望鏡をくるくる回して、人影を気にする。こういう時、自分に二つの目以外に視界を得る手段があってよかった、とダイブは創造主たるコサック博士に心底感謝していた。
「大丈夫だよ、ここは今の時間は漁師だっていないんだし、岩が陰になってくれてるから君は見えても、僕は見えないから」
隣に座る緑色の潜水夫を模したロボット――DWN011、バブルマンは呑気な口調でそう呟いた。
あの世界的な犯罪者Dr.ワイリーが作ったロボットと、海上パトロール員のロボットがなぜ一緒にいるのか、それにはちゃんとした理由がある。
海中で、いや水場で活動するロボットはあまり数がいない。まして人型で、思考をする者となると相当少なくなる。それに対して彼らが働く海は果てしなく広く、その青の中はゆっくりと、しかし絶え間なく変化しており、常に最新の情報が必要なのだ。ゆえに、彼らは製作者の違いや縄付きであるかなど関係なく、データの交換をしているのだ。
「大体、一緒にいる理由は正当なんだからさ、こそこそしていたら余計怪しまれるだけだよ。堂々としてなよ、図体はデカイのに、意外と肝は小さいんだね」
「……じゃあ、あそこのレストランでやるか?」
「……悪かったよ、今のは言い過ぎた」
肩を竦めて謝罪になっていない謝罪をすると、バブルはイヤーレシーバーからコードを引っこ抜いた。なんだ、と彼の行動を不思議に思っていたダイブは、人工網膜にダウンロード完了の文字を確認して、ようやくデータ交換が終わっていたことに気づいた。
「君、もうちょっとデータの整理しておいた方がいいんじゃない? 必要なのを取り出すのに手間食っちゃったよ」
口で話すよりも、ゴーグルの下で、バブルの瞳が文句を更に語っている。ダイブはそれに適当な相槌を打ちながら、ヘルメットの下に差し込まれていたケーブルを乱暴に引っ張り出していた。
「これか、と目星をつけると君の思い人にぶち当たるんだから、始末が悪いったりゃありゃしないよ」
「だ、だ、誰が思い人って!」
叫ぶダイブの顔が朱に染まる。そんな彼の態度に驚いたのは先に意見をしたバブルの方だった。
「なんだい、適当に言ったつもりが図星だったのか」
「ず……!!」
肩を掴んで揺らす手が止まる。ダイブの赤い顔はいよいよ赤く、この頭の上にヤカンでも置いたら湯でも沸くんじゃないかと、バブルはますます呑気に考えていた。
「君、身内でもからかわれる方でしょ」
「……なんでそこまでついてくるんだよ……」
盛大なため息と共に、ダイブは力なく近くの岩に腰をかける。しょぼんと力をなくした肩が、一層哀れを誘った。
「まあ、あれだ。そのデータは面倒くさいかもしれないけれど、隔離しておいた方がいいんじゃない?」
「……そりゃそっちがいいのかもしれないけどさ、でも覗くのに一々手間かけたくないじゃないか」
相手の顔は、すぐにでも見たいだろ?
ダイブが付け加えた一言には確かにバブルも賛成だった。好きな人の顔だったら、すぐにでも見られる場所に置いておきたい。粗雑な男が意外にも繊細な理由も持っていたことに驚きつつ、バブルは息を吐いた。
「でもさ、それだと、自分にだけ見せる顔も、他の奴に見られるってことじゃない? 僕はごめんだね、そんなの」
「……掌中の、珠ってやつか?」
「あら、意外と難しい言葉を知っているんだね」
うるせぇ、と悪態を吐いてダイブはソッポを向く。バブルの言っていることも、判らないわけではないし、自分だって抱いたことのある感情だ。ただ、そんな風に思うことが狭量な気がしたからできなかったのだ。
「手間なのはわかるけど、やっぱ隠しておきな。下手したらほぼ全員に晒していることになるわけだしね」
「……聞くだけ聞いとくよ」
一応の会話の区切りの中、潮風に混じってダイブを呼ぶ声がした。
「じゃ、僕はもう行くよ。海中データありがとうね」
そそくさとコードをしまってバブルは海に飛び込む。濃い海の青は、緑の痕跡など一つも残さず飲み込んでしまった。
「ダイブさん、お弁当持ってきましたよ」
「ああ、すぐ行く」
やってきた手漕ぎポンプを模した青いロボットに返事をして、ダイブは手前の岩に足をかけた。
おわり
最初に考えていたのとまた別のになったな……
当初は「思っている相手に殺されるならそれはそれで幸せじゃないか?」って話でした。
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