バブルさん視点
バブルさんがウジウジ病発病(しかも相当ウザくなっています)
スプラッシュさんに足がついています(ライト博士製)
[4回]
うん、君が悪いんじゃない。悪いのは全部僕なんだ。
つまり、その、ね。君が、ライト博士から作ってもらった足はとっても君に合っているし、綺麗だと思うんだ。
うん、うん。だから君が悪いんじゃない。さっきも言ったけれど、悪いのは全部僕なんだ。僕が勝手に思い込んで、勝手に落ち込んでしまっただけなんだ。
当たり前だけれど、海にいるロボットより、陸にいるロボットの方が数が多くて、当然だけれど、それに比例して、かっこいいとか、優しいとか、うん、つまり、僕なんかよりも断然いい、魅力的なロボットってのがたくさんいるわけなんだよ。
だから、君が陸に上がったら、きっとそういう人を見つけて、もしかしたら恋に落ちてって、そんな風に思っちゃったんだよ。考えちゃったんだ。うん、勝手に。
人魚姫が好きになった王子さまってさ、人間――足のある者だったでしょ?だからさ、もしかしたら、君の本当の王子様は僕なんかじゃなくて、もっと別の人かもしれない。君が足を手に入れて、そして陸を自由に歩き回ってはじめて見つける人なのかもしれない……って考えて、だからその、不機嫌みたいな感じになってしまったんだよ、たぶん。
そこまで言って、僕は一息をついた。すべてではないとはいえ、こんなに内面を吐露したのはいつぶりだろう。いやもしかしたらはじめてかもしれないなんてぼんやりと思っていた。
彼女と楽しい時間を過ごしながらも、常に、心の片隅にいつも不安が居ついていた。自分は彼女にふさわしい相手ではない。もっと良い人が、彼女を幸せにしてくれる「王子様」がいるんじゃないか、と。僕は、彼女を幸せにするにはあんまりにも不適格者すぎる気がしたんだ。
見てくれや性能等もそうだけれど、僕たちの立場はあまりにも違いすぎて、そしてその弊害で、僕は常に彼女の隣にいることができなかった。同じ屋根の下で暮らすなんてのはもってのほか、毎日会うことすらままならないし、連絡を取り合うことも難しい。
彼女が辛い時も苦しい時も、僕はそばにいなくて、その肩を抱いてやることも慰めの言葉をかけることもできない。そんなことがあった、と聞いた時にはもうすべてが終わっていた、なんてことは数え切れないほどだった。そんな時、王子様、だったらきっと傍にいっているはずだし、彼女を抱きしめることだってできるはずなんだ。
どんなに体を触れ合わせても、どんなに言葉や物を送っても、肝心なときに一緒にいることができない僕は、王子様じゃない。彼女を、この人を本当に幸せにはできないって。
「だから?」
前に座ったスプラッシュはそう僕に尋ねる。その語気は強くて、はっきり言うと、怒っているようだった。
「だから、その、……僕が不機嫌なのは、君に足がついたからじゃなくて、僕の勝手な」
「あのね」
頬をつかんで、僕の目の中を覗き込んでくる。避けたくても避けられなくて、僕は次の言葉を待つしかなかった。
「もし、私に足の他に羽がついて、それで世界中を回りつくしたとしても。貴方以上の王子様なんて絶対見つけられないと思うの」
反論しようと口を開けるけれど、それより先に彼女が言葉を投げる。
「一緒にいられないっていうけど、そんな恋人、どこにだっているわ。それでも幸せな人たちってちゃんといるもの。それに……」
肩にかすかな重みが加わる。ちょっとだけ視線を下げると彼女の青い頭が見えた。
「……気づいていないだろうけど、貴方、本当の本当に一緒にいて欲しいときは、いつだって一緒にいてくれるのよ?」
そうだっただろうか、と言葉を聴いて考えるけれど、答えに辿り着く前に彼女は顔を上げる。その目にうっすらと水が張っていて、ほっぺたは赤く染まっていた。
「……それでも、まだ王子様、って思えない?」
「……それは……」
「その口ぶりだと、まだ思っていないみたいね」
体に寄りかかってきたスプラッシュは、僕のマスクをずらして口を露出させる。ここには空調があって、記憶では確か、暖かくしていたはずなのに、なぜか寒く感じた。
「だから」
スプラッシュの顔が近くにある。どうしよう、なんだか、逃げた方がいい気がするのに、体が動いてくれなかった。
「思い知らせてあげる。貴方が、私の王子様だって」
有無を言わさずに唇を塞がれて、僕は彼女に押し倒された。
それから僕は彼女にたっぷりと王子様だと刷り込まされ、すっかり骨抜きにされてしまった。
……彼女がどんな方法を使ったかは、それは僕たちだけの秘密だ。
終わり
ウジウジだったり有バブさんみたいにえらそうだったり、えらく余裕があって冷静だったり自分の中のバブルさんのイメージがばらばら。どのバブルも好きなんだけど、やっぱり統一したほうがいいんだろうな、これ。
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