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【2024/04/19 12:37 】 |
夜とにいちゃんとぼく


腐向け。双子(→)←放電。放電一人称の話。呼び方とか色々捏造しています。



拍手[3回]



 心があるから、好きって感情をたくさんのものに抱く事が出来る。でも、たった一つだけ、特別な好き、がこの世の中にはあるんだって。
 ぼくの、たった一つだけの特別な好き、をおにいちゃんは理解してくれているのか、分からない。

 窓の外は真っ暗で、小さな星の欠片すら見当たらない。なんとなく、雲が早く流れていくのだけが見える。たまに聞こえる誰かの足音も、あんまりにも小さくて、耳の中をカサカサ撫でるだけだった。
 夜はあんまり好きじゃない。電気がたくさん集まっているのは綺麗だと思うけれど、でもそれは時間が経つごとに少なくなっていく。真っ暗な中にポツン、ポツン、とある光はあんまりに寂しくって、見ていて悲しくなる。
 電気がある所には誰かがいるんだよ、とマグにいちゃんは教えてくれたけれど、そこにいる誰かが一人ぼっちだったらと考えると僕まで寂しくなってしまう。
 見張り番の時は誰かと一緒だから、寂しいって気持ちはほんの少しだけしか浮かばない。話しかければ返事をしてくれるし、触れる相手だったら、近づくだけでも気が紛れる。
 嫌なのは部屋で眠る時だ。すぐに眠れるならいいけれど、寝付けない時は本当に辛くてたまらない。部屋中の闇が一つになって、音が段々と地面に落ちて少なくなっていく。世界がぼく一人を残して無くなっていくようで、目を閉じて眠れば朝だと思っても、頭が怖いでパンパンに膨れてしまうのだ。
 一人で頑張って眠るようにはしているけれど、今日はダメだった。多分、お昼にクラウンがやっていたゲームが怖いのだったからだと思う。かけている毛布が端から冷えていって、まるで追い詰められているみたいだ。
 ベッドから起きて、ぼくは部屋のドアを開ける。廊下はぽつん、ぽつん、と明かりがあるだけでそれ以外は黒しかない。音も、でも、少しは聞こえるけれど、怖くないと思えるようにはしてくれなかった。お化けとか分からない物の声みたいに聞こえてくるのだ。
 誰かいないかな、と考えてみる。スネークとシャドーは任務でいないし、タップは見張りのお仕事で、ハードはメンテナンス中だ。一番近くにいるのは、多分、ジェミにいちゃんだ。
 ぼくは大急ぎでジェミにいちゃんの部屋へと走った。いつもはあっという間の距離なのに、今はずっと遠く、廊下の向こうにあるみたいな気がした。早く、早く、走らないと、廊下の隅から真っ黒いのが捕まえに来る。
 ドアの前に辿り着いて、トントンとノックした。寝ているかな、気づかないかな。動力炉が早く動いて、目の前がゆらゆらする。もう一回ノックしようとしたら、ドアがするりと動いてくれた。
「静かに……と、スパーク、どうしたんだ?」
 ジェミにいちゃんの声で、真っ黒い何かはすっと後ろに下がっていく。ぼくは思い切り息を吸うと、まずはジェミにいちゃんに謝った。
「ジェミにいちゃん、ごめんなさい。寝られなくて、怖くて来たの」
「いいんだよスパーク、そうか、寝られなかったのか」
 そう笑うと、ジェミにいちゃんはぼくのほっぺたを触って許してくれる。細くて長い指は、ちょっとだけ固くて冷たいけれど、にいちゃんみたいで大好きだ。
「部屋に入りなさい。暖かい物を飲んで、少しお話しすれば眠くなると思うから」
 ジェミにいちゃんに言われて、ぼくは部屋の中に入った。にいちゃんの部屋は鏡とかガラスとかが一杯あって、ピカピカしてとても眩しいけれどきれいでにいちゃんらしいのだ。
 にいちゃんはベッドに座る様に勧めると、部屋から出て行ってしまう。ほんのちょっと心細かったけれど、ジェミにいちゃんはカップを持ってすぐに戻ってきてくれた。
「ほら、スパーク。ホットミルクだ。ハチミツも少し入っているから、甘くておいしいよ」
 隣に座ったジェミにいちゃんは、ぼくにホットミルクを飲ませようとコーヒーカップを傾けてくれる。口にすると、ほんのりと温かいそれからは、ミルクとハチミツの甘い味がふんわりと広がってとてもおいしかった。
「火傷すると悪いからあまり熱くはしていないけれど、冷たくないかい?」
「うん、大丈夫だよ。甘くてね、とってもおいしいよ。ジェミにいちゃんも一緒に飲もうよ」
「ありがとう。でも、私はいいんだよ。スパーク、お前は本当に優しい子だね」
 笑うジェミにいちゃんはとてもカッコいい。スネークはいいかっこしいのなるしすとやろーって言うけれど、ぼくはジェミにいちゃんを本当にカッコいいと思っている。眩しいなんて言われる、頭の飾りもピカピカして綺麗で、にいちゃんに似合っていた。
「今日はあんまり人がいないんだね、ちょっと寂しいよ」
「そうだな……スパークは人が少ないのは、やっぱり嫌いかい?」
「うん……。怖いし、寂しいもん」
 にいちゃんは大丈夫なの、と聞くと、すぐには返事をしないで、顎に手を当てて少し考えていた。
「まあ……多少は思う事もあるけれど、皆が必要な事で出払っているから、仕方ないかなと思うかな」
「そうかぁ。……やっぱりにいちゃんはすごいなぁ。ちゃんと大人の考えが出来るんだもの」
 ジェミにいちゃんは必要な事を考えられるけれど、ぼくはぼくの気持ちを優先してしまう。それはあんまりいけない事だって分かっていた。
「自分の気持ちを優先するのは、悪い事じゃないと思うよ。……全員がそれをしたら、確かに困るけれどねぇ」
 でも。そこで言葉を切ったジェミにいちゃんは、カップを置くとぼくの口を拭ってくれた。細い指が少し固くて、動力炉がちょっとだけ早く動く。
「でも、もし皆が皆、必要な事ばかりを優先して考えていたら、止まらなきゃいけない時に止められなくなってしまうかもしれない。……スパークが自分の気持ちを優先してくれるから、その言葉を聞いて足を止めて考える事が出来るんだよ。少なくとも、私はそう思っている」
 ジェミにいちゃんはそう言って、ぼくの腕を撫でてくれた。にいちゃんは自分の事しか話さないなんて言われるけれど、本当はちゃんとみんなの良い所を見てくれているのを、ぼくは知っている。にいちゃんは仲が悪いスネークの事だって、あいつは粘り強い奴だって褒めていたんだもの。
「ありがとう、にいちゃん」
 笑って言うと、ジェミにいちゃんも笑い返してくれる。カッコいい顔が優しくなって、ぼくはにいちゃんの笑った顔が大好きだ。本当の事を言うと、にいちゃんの全部が大好きなんだ。
 ホットミルクを飲んで、お話をして。それを繰り返すうちに、体がポカポカしてきて、瞼がトロンと落ちてきた。
「……ああ、眠くなってきたみたいだね、スパーク」
 ジェミにいちゃんの優しい声がぼんやり聞こえる。背中に何かが添えられて、そのままゆっくりと寝かせられた。
「部屋に戻るのも大変だろうし、今日は私の部屋で寝るといいよ」
 声と一緒に暖かくて柔らかい物が体に掛けられる。閉じそうな目を頑張って開けると、隣にいるジェミにいちゃんの顔が見えた。
「あ……が、と……に、ちゃ……」
 もっともっと言いたい言葉あったけれど、これ以上は口が動いてくれなかった。でも、もしそれを言ったとしても、本当の事までは伝わらないと思うから、動かなくて良かったのかもしれない。
 意識が真っ暗になる直前、ほっぺたに何かが触れる。それはとても柔らかくて暖かいものだった。

終わり
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【2019/03/13 16:42 】 | SS | 有り難いご意見(0)
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