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【2024/04/20 11:59 】 |
初めまして、兄弟(陰←発条)
陰←発条(スプリング)
陰さん発条さんの設定捏造あり
発条さんの台詞、間違っていたらごめんなさい


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「移動、ですか?」
 繋がったコードを一つずつ外しながら蝙蝠の羽を生やしたロボット――シェードマンは目の前の作業服を着た男が言った言葉を復唱した。
「そうなんだ。今度、うちの遊園地が開園四十周年を迎えるのは知っているだろ?」
「ええまあ」
「それに合わせて、いくつか施設をリニューアルする事になったんだが、その中にお化け屋敷も入っているんだ」
 なるほど、と一つシェードは頷いた。確かに自分がいるお化け屋敷は古い。なんでも開園十五周年に建てられた、この遊園地の中では古参の一つに数えられるほどの年代物だと聞いている。
「お客さんにはそれが味だとか、子供の頃からある懐かしい施設だとか、むしろこのままの方が出そうだとか……あ、悪い悪い」
 饒舌に話していた作業員は頭を下げながら言葉を止めた。シェードが不満そうに唇を尖らせていたからである。
「……んまあとにかく、今のままでも支持は得られているんだがやっぱり古いからな。メンテナンスやリフォームはやっていても追いつかない所もあるし、結局リニューアルさせることにしたんだ」
 彼の話を聞きながらお化け屋敷の様子を思い出す。手動のドアは隙間が空き、完全に閉まる事がなくなってどれくらい経つのだろか。天井は新旧の合板がつぎはぎとなり、直しても直しきれない雨漏りが従業員通路にいくつも染みを作っていた。客に向かって生暖かい風を吐き出す機械は時々冷風を吹き付け、その隅には巣を作った……いや、やめておこう。わざわざ嫌いな物を思い出す必要はない。
「……確かに根本的に直すには建て直ししかないでしょうね」
「うん、それでリニューアルと同時に、コンセプトも変えようって話になったんだ。いままでは和洋折衷と言うか、前半が洋風、後半が和風って感じに作っていただろ? それを今度は完全和風にする事にしたんだ。ジャパニーズホラーっての、ほら、またブームになっているだろ?」
 そこまで聞いて聡いシェードには合点がいった。なるほど、洋風な自分がそんな和風の世界にいたら、訪れた客が首を傾げるのは確実だ。
「それで移動、ってわけですか? でもどこに行くんです? ここにお化け屋敷と言うか、それに近い施設なんてあとは……」
「いんや。別の遊園地でお前が欲しいって場所があってな。多分そのうち、上の人から正式な話がくると思うんだが……」
 気のない返事がシェードの口から零れる。廃棄処分にならないのは良かったのだが、それでも今までいた場所から、いらないと言われるのはやはり堪えるものがある。
「……欲しい、と言ってくれる場所があるだけ幸運ですよね、多分」
 呟いた言葉に反応しなかったのは、従業員の優しさだろう。それ以上は口に出さず、シェードは尖った鼻をひっかくようになぞっていた。


 ジン、と背筋に熱い痺れが走る。同時に滞留していた燃料がゆっくりと動き始めたのを、シェードは感じていた。むくんだような指を曲げ、恐る恐る体を起こし、瞼を上げた。
 辺りは薄暗く、聞こえてくるのはかすかな機械の音だけである。頭はまだぼんやりしており、移動の為にスリープモードに入っていたと、そんな事を思い出すのに大分かなりの時間を費やしていた。
 首を強く横に振り、もう一度顔を上げる。暗闇に慣れてきた瞳に数多の機械が飛び込んでくる。メンテナンスルームかと思ったが、それにしては調整を受けているロボットの姿が見えないし、なにより雰囲気が違っていた。
 シェードが知る遊園地のメンテナンスルームというのは、活気に満ちあふれ、和気藹々とした場所である。働いていた所もそうであったし、出張で訪れた他の遊園地もそうだった。
 しかしここにはそう言った類の空気は全くない。どちらかと言うと陰気である。更に言うなら、自分が活躍していたお化け屋敷に似ている物がそこにはあった。
 メンテナンスルームを飛ばしてお化け屋敷に直行したのか。考えて後、乱暴だなと呟いたその時、自分の近くに誰かがいる事にシェードはようやく気が付いた。
「作業員の方ですか?」
 尋ねながら気配のする方を向くと、そこには一体、ロボットがいるだけだった。
「……ア……」
 銀色の頭部をしたロボットは、微かな声を出した。妙にふら付いているのはメンテナンスの最中だからか、とシェードは思ったが、彼の体を見てその不自然な動きの理由を察した。胴、いや腕や足もいわゆる「バネ」で作られているのだ。
「アア……」
 身じろぎするたびにポヨンポヨンと体が揺れる。目の周りをほんのり染めて、自分の前にいるロボットは驚愕の表情を浮かべるばかりである。
(恥ずかしがっているのか? 人見知りなんて、同輩にしては珍しいですね)
 奇妙に思うがこのままでは埒が明かない。シェードは息を吐き、ひとまず挨拶をしてみる事にしてみた。
「はじめまして、ご同輩。私は……」
「あ、あ、……っ」
 ロボットが呻いた、次の瞬間だった。彼と言うのか彼女と言うのか、とにかく目の前のバネ人形は、両手を頬に添え文字通り天井にも届かんばかりにぴょんと跳ね上がったのだ。
「キャアーー!!」
 黄色い悲鳴を上げ、ロボットはピョンピョンと跳ねながら部屋を出て行く。呆気に取られ、その背中を見送ってすぐ。
「……っギャアアア!!!」
 今度はシェードが叫び声を上げた。それは部屋中どころか、相当遠くにまで響いたらしく、程なくして二体のロボットが飛び込んできた。
「どうした?!」
「敵襲……あら?!」
 やってきたロボットにも気づかず、シェードはただメンテナンス用ポッドの中でバタバタと慌てふためくだけだった。

「……どうだ、落ち着いたか?」
「……はあ、なんとか……」
 差し出されたロボット用のお茶を見つめながら、シェードはソファーの上でひたすら小さくなっていた。
「その、すみません。私、どうしても虫みたいに跳ねる感じの物が苦手で……」
「苦手、と言うのは誰にでもある。私も犬は苦手だからな」
「でもアンタの驚き方は、さすがにちょっと大げさって感じがしないでもないけど……」
「はは……前の職場でも言われましたよ。でも仕事の最中に虫が体にくっついて、しかも払う事ができないって状況を何度も経験したらそうなりますよ。特に一回なんか、バッタとハエとクモが一緒くたにくっついて、しかも首や脇なんかをモゾモゾ這っていたんですから……」
 聞いていて身に堪えたのだろうか、黄色と青色が目立つ装甲を身に着けたロボットはぶるりと体を震わせた。
「あー、そりゃ確かにいやだわ。俺だっていやだ」
「そうでしょう? しかもお客様がいるわけですから、払う事もできませんし……」
 饒舌になる口を止めて、シェードは辺りを見回す。騒いだ果てに通されたこの部屋はおそらく応接室だろう。普通こういう部屋はやってきた客に好かれるような造りになっているのだが、現在自分がいる場所はそういう雰囲気ではない。訪れたもの……特に人間を拒否しているような気がしてならないのだ。
 もう一度、目の前にいるロボットに目を向ける。自分の意見に賛同してくれた方はともかく、彼の隣にいる赤い装甲のロボットはあきらかに遊園地向きではない。
 それを感じると同時に、シェードは妙なひっかかりを覚えた。どうも自分はこの物騒なロボットを見た事がある気がしてならない。しかしそれがどこだったかまでは、はっきりとわからなかった。
「……あの、貴方達は遊園地で働いている、方、なんですよね?」
 膨らみつつある不安を抑えながら、シェードは怖々と二人に尋ねる。やって来る答えに期待はしてみるが、どうしてだろうか、絶対に叶わない気がしてならないのだ。
「DWN.009、メタルマン。隣がDWN.014、フラッシュマン。……聞いた事はないか?」
 朱のロボットがぼそりと呟く。聞かされたナンバーを反芻してすぐ、シェードは目を丸くした。
「じゃ、じゃあ貴方がたは、ロックマンと戦った、あの、ワイリー博士の!」
 衝撃に体が震えたせいだろう、言いたい事がうまく出てこなかった。しかしこれで先ほど感じたひっかかりも消化できたわけである。
 本日二度目の驚愕を、しかしシェードは思ったよりも冷静に受け止めていた。本当ならこっちの方がずっと重いはずだが、先ほどの狂乱のおかげで動力炉は意外に早く元の速度に戻っていった。
 人間でいう所の臍下丹田にぐっと力を入れ、息を短く吐く。最後に大きく塊を吐いてから、シェードは顔を上げた。
「……どうして、どうやって私をここへ連れてきたんです? まさか、手荒な事はしていませんよね?」
 聞くべきものが違うような気もするが、どうしても尋ねたかった。これでも自分の到着を待っていた人達が居た身である。もし無体な事があれば、例え敵わなくても抵抗の一つはしたかった。
 自分の質問に驚いたのだろうか、メタルマンとフラッシュマンは互いに顔を見合わせている。やって来る問いがもっと過激なものか、自分の身を心配するもののはずと予想していたからに違いない。
「あー……大丈夫だ。手荒な事なんて一つもしてないよ」
 先に口を開いたのはフラッシュマンの方だった。彼は後ろにあったカラーボックスに手を伸ばし、そこから一部の新聞を取り出して机の上に差し出した。
 なんだろう、と一面を眺めるとそこには銀行破綻の見出しが躍っていた。気になって読み進めると、融資していた遊園地……自分の第二の活躍の場であった場所の閉園についても書かれていたのである。
 一体自分は何度驚けばすむのだろうか。さすがに驚き疲れたのか、声すらも出ない。それ以上は読めなくなった新聞を机に置いてからも、体の震えが止まる事はなかった。
「……銀行が破綻し、遊園地の閉鎖が決まったのはお前がそこに到着してすぐの事だ。従業員も対処に困っていたみたいでな、こちらからロボットを譲ってほしいと言ったら喜んで渡してくれたよ」
 まるで物みたいに言うな、とシェードは苦笑いを浮かべる。もっともロボットだから物には違いないが、実際にそう粗末に扱われるとさすがに面白くはなかった。
「すぐに稼働できる人型ロボットなんて、いいお宝だったでしょうね、貴方達には」
 皮肉を響かせながら言ってみたが、果たして向こうに届いたかどうか。少なくともメタルマンには効果はなかったように思えた。
「……して、私はどのようになりますか? 予想は出来ますし、それを拒否した場合……」
 攻めを急ぐのは損に繋がるかもしれない。それはわかっているのだが、言葉を抑える事が出来なかった。
 八つ当たりをしている。頭の片隅でシェードはそれを自覚する。なにもかもタイミングが悪かったと言ってしまえばそうなのだが、どうも理性ではわかっていても、心が拒否しているらしい。
 台詞を畳みかけようと口を開いた時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「メタルマン、フラッシュマン、調子はどんなだ?」
 冷戦の様な会話の中に、老人がぬるりと割り込んできた。蝙蝠のような髪の男を見て、シェードはすぐに彼の正体を察した。この人が世を騒がせる「悪の天才科学者」ドクター・ワイリーだと。
「博士、まだスラッシュマンの本機体調整途中では?」
 老人の突然の訪問に慌てたのはメタルマンだった。今まで感じていた緊張が一瞬にして柔らかくなったところを見るに、彼はこの老博士には弱いらしい。
「もう八割はすんどる。最後の仕上げ以外はエアーやグラビティー達にでも出来る事だから任せてきたわ。それに……」
 じろり、と視線を向けられる。体が緊張で硬直したが、おかしな事に恐怖は感じられなかった。
「こういった交渉事は、上に立つ者が出てこにゃ話にならんじゃろ」
 にいっと笑い、メタルマンの胸を手の甲で叩く。驚いた赤いロボットが立ち上がると同時に、ワイリーはソファーに腰を掛けた。
「……さて、シェードマンと言ったな。お初にお目にかかる。ワシがその名も高いアルバート・W・ワイリーだ」
 聞こえてきた声にきわめて人間的で、想像していた底冷えするような寒さはなかった。シェードはそれに呆気に取られると同時に、緊張が解けていくのを感じていた。
「お目に掛かれて光栄です、ワイリー博士。さて、遊園地で働いていた、一作業用ロボットのこの私に、一体何をしろと言うんでしょうか」
 弛緩していた体を一度叩き、眼前の人間にあえて慇懃無礼にも感じられるような言葉を投げつける。自分の態度を微妙に感じ取ったのだろう、メタルマンとフラッシュマンはいくらか眉を顰めた。ワイリー博士の方は、と目を向けては見ると、彼の表情に怒りは浮かんでいなかった。
「ハハハ……お前さん、なかなか腹が座っとるな。命乞いやら逃げ回る奴なぞ話にならんからな。うん、ワシはお前が気に入った」
 老博士は筋張り、いくつか火傷の痕が見える手で膝を強く叩く。片方の眉を上げ、ワイリーはじっとシェードの顔を覗き込んだ。
「そんなお前に免じて、率直に言おう。シェードマン、我がワイリー軍団には今、お前が必要なんじゃ」
「……必要、ですか」
 幾ばくの沈黙の後、シェードから洩れた言葉はあまりにも短かった。交渉を有利に進める為の作戦などではない。熱い物が急激に体中を走り回り、それを抑えるので手一杯だったからだ。
「お前の飛行能力は、現在進めている七度目の計画に欲しい力だ。それになによりワシと相対しても動じなかった度胸が気に入った」
 ワイリーの言葉に耳を傾けながら、フラッシュマンは少しだけ笑う。ここに来る前の、虫ごときで喚いていたシェードの姿を思い出しているのだろう。
「どうじゃ、ワシと共に来てはみんか? もっとも無理強いはせんよ。過去の例から、強制的に言う事を聞かせても結局は足を引っ張るだけと言うのは重々承知じゃて」
 蝙蝠のロボットは口を噤んでいた。探るような目つきで老人と彼の後ろにいる同族を見つめ、やがて長い息を吐いた。
「……もし、貴方の提案を拒否したら、私はどうなりますか?」
「別にどうともせん。どこかで働きたいと言うなら、信用できる仲介業者に新しい場所を探してもらうつもりだ。ああ、悪いがここでの記憶は消させてもらうがの。……もうこれ以上人に使われるのがイヤだ、というなら、それ相応の処置はするが、どうするにしてもお前の自由だ。さっきも言った通り、強制的にしても損をするのはこちらの方だからな」
 老人はそれだけを言うと片眉をぴくぴくと吊り上げたきり、続きを口にする事はなかった。
 沈黙が部屋の中に広がる。どちらも動きを見せるそぶりはなく、ただ空気だけが重くなるだけであった。
「……いいでしょう、ワイリー博士。私が気に入ったと言うなら、このシェードマン、貴方の為に存分に力を発揮いたします」
 シェードは涼しい笑みを浮かべ、そう言い切った。
「ふふん、嬉しい事を言ってくれるな。よっし、シェードマン、お前は今日から我がワイリー軍団の一員じゃ!」
 延ばされた手を取り、固く握り合ったその時、壁に設置された古風な通信機から呼び出し音が部屋中に鳴り響く。気づいたメタルマンが応対していたが、程なくして彼はワイリーの方へと顔を向けた。
「博士、エアーから連絡です。スラッシュマンの機体温度調整で問題が出たと……」
「なんじゃ、あれほど調整したのにまだダメだったか。シェードマン、すまんが装甲の強化など詳しい説明はまたあとで行わせてもらうが、構わんか?」
 問いかけに蝙蝠は大きく頷く。ワイリーはもう一度謝罪を口にして、メタルマンを引き連れて部屋から出て行ってしまった。
 風の様だった。残されたシェードはぼんやりとそんな事を考える。老人の登場も、彼からの提案も、何もかもが唐突過ぎたせいだろうか。
 急な疲れを感じ、シェードはソファーに体を深く静める。天井を仰いでいると、小さな笑い声が聞こえてきた。
「……なんですか、急に」
 傍らを見れば、フラッシュマンが面白そうにくすくすと笑っている。なんでいるのか、と思ったがそういえば彼はワイリーからの指名は受けていなかった。
「いやなに、さっきまであんだけピッとしていたのが、ぐてーっと疲れていたのが面白くてな」
「そりゃ……貴方は生まれた時から、ワイリー博士と一緒だったでしょうけど、こちらはそうじゃなかったんですよ。貴方は怒るかもしれませんけれど、一級の犯罪者を前にして畏れない人はいないはずです」
 まあ、その人の下で働く事にしましたけど。付け加えると、フラッシュマンはまた面白そうに目を細めた。
「そこまできっぱりと言えるなら将来有望だよ、お前。……それにしても一体どこら辺で力を貸そうって言える気になったんだ?」
 質問にシェードはただ困惑の表情で答えるだけだった。言葉が足りないと気づいたのか、フラッシュマンはすまんと一言呟いた。
「何と言うか、どうしてすぐ、力を貸すって言えたのかなと思ってさ。普通の奴だったら、最低でも一晩は考えさせてくれって言うんだよ。なのにお前は、博士に会ってほぼすぐって感じだったし、別に人間に怨みを抱いているって出自でもないのに、どうしてそうなのかなって」
「ああ、そういう事ですか。……単純に、私があの人を気に入ったって言うのと、必要だと仰って下さった、それだけですよ」
 常盤の瞳がぼおっと遠くを見遣る。フラッシュマンは口を開いたが、そこから音を出す事はしなかった。
「……ん、どうしたメタル?」
 通信でも入ったのだろうか、フラッシュマンはイヤーレシーバーに手を当て呟いた。いくつか相槌を打って後、再びシェードの方へと顔を向けた。
「どうしました、何か……」
「ああ、どういった改造をするか説明しておけ、とさ。と言っても、俺が出来るのは簡単な奴だけどな」
「改造、ですか……」
 ワイリー軍団に入るとなれば、当然戦闘用への改造はしなければならないだろう。覚悟はしていた事であるが、いざとなると寂しいような、怖いような感情が頭を駆け巡る。
「そんな変な顔すんなよ。ボディーデザインやらなにやらを全て変更するって事はしないし、AI部分の改造も絶対しないってのがウチのモットーだ。アンタの場合だったら、そうだな、装甲の強化と飛行スピードの速さの変更、後はハンドパーツの変更って辺りかな? ……とにかく、そういう話はここじゃなくて、アンタを寝かしていた場所でやろうか。あそこ、一応メンテナンス室だからな」
 肩をぐるりと大きく回し、フラッシュマンは一歩、ドアへと足を向けた。
 暗く、のっぺりとした通路を二人連れだって歩くと言うのはなかなか寂しい物がある。ここで会話でも弾めば少しは気が紛れるだろうが、シェードは生憎話題を切らしていた。今日からここの一員なのだから、あれこれを尋ねてもどうという事はないはずである。そこであと一歩を足踏みするのは、さじ加減をはかりかねているからだった。
 とはいえ沈黙も続けば、体に悪影響が出てくると言うものだ。調子を少しでも軽くしようと空気を飲み込んでいると、シェードはそういえばとばかりに一つを思い出した。
「あの、私を起こして下さったロボット、あれってどなたですか?」
 相槌、にしては少々いびつな声を上げて、前を歩いていたフラッシュマンは振り返った。
「体のいくらかがバネで出来ていたロボットだったんですが……私はほら、虫のせいで跳ねるものがどうしてもダメでしてね。でも起こしてくれた方ですから……」
「ああ……アイツが起動させたのか。道理で予定よりも早いと思ったよ。見るだけにしろって言っていたの……」
 ぼりぼりと頭を掻きつつ、フラッシュマンは小さくぼやく。どうも自分を起こしてくれたロボットはなにか悪い事をしてしまったようだった。
「ああ、悪いな。アンタを起こした奴はスプリングマンって言ってな、アンタと一緒に第七次計画に参加するロボだ」
「となると、彼は私の先輩と言う事ですか?」
「んーん、ナンバー的にはそうかな? でも起動年数はアンタの方が上だ。なにしろアイツは生粋のワイリーナンバーだからな」
 フラッシュマンはそれからもいくつかの言葉を呟いていたが、シェードの耳には入ってこなかった。
 起動年数が下、と言う事は、スプリングマンはまだ幼いのだろうか。彼が去った後だったとしても、自分があんな風に驚いた事で彼はひどく傷ついたに違いない。
 もし会ったら謝っておこう、などと考えながら角を曲がった時、爪先に何かが当たった。何かと視線を向けると、見覚えのあるロボットが座り込んでいた。
「はて……?」
「あ……」
 噂をすれば影が差すと言うが、それは本当らしい。壁にもたれかかるように座っていたスプリングマンは、頭部にある銀色のバネをポヨンと揺らして、こちらを見上げていた。
「あの、スプ……」
「ご、ごめんなサーイ!!」
 ピンクのバネは急に跳ね上がると、そんな事を叫んで再び廊下の向こうへと飛んで行ってしまった。悲鳴の二重奏を予想したのか、フラッシュマンはイヤーレシーバーに手を当てたが、そのわりには静かである。
 どうしたのだろう。時間差に覚えながら恐る恐る手を離し、フラッシュマンはシェードマンのいるはずの場所を見たが、そこに彼はいなかった。


 跳ねる様に走り、はてどれほど来たのだろう。倉庫の手前に辿り着いたスプリングは、大きく息を吐くと同時にぺたりと座り込んだ。
「ウウン……また、だめデシタ……」
 顔に当てた掌が熱い。早鐘の如く動力炉が鳴るのは、急に動いたからだけでない事を、彼は良く知っていた。
「アア、もう、私の馬鹿! どうして勇気が出ないんでショーカ……」
 しょげると共に、頭のバネもくたりと下がる。スプリングには別に驚かせるつもりなんて全くなかった。ただシェードにさっきの事を謝って、そしてちょっと会話をするだけで十分だったのだ。
「……でも本当に素敵な方デース……眠っているのだって麗しかったのに、起きていると……」
「あら。私ってそんなに素敵でした?」
 天井から突然に声が落ちてくる。驚いて顔を上げたスプリングの前にシェードが勢いよく下りてきた。
「ヒャッ、ヒッ!!」
 逃げようとしても縮こまった体は動いてくれない。その上肩まで掴まれてしまい、スプリングは様々な意味でドキドキするだけであった。
「すみません乱暴して。でもこうしないと、貴方に逃げられてしまいますから……」
 つるりとシェードに、人でいう所の頬の辺りをなぞられる。指先は爪を模しているのだろうか、ほんのり尖ってくすぐったかった。
「初めまして、と言うべきでしょうね。スプリングマンさん。新しくワイリーナンバーズに参加する事になりました、シェードマンと言います。今後ともよろしくお願いいたします」
 シェードはスプリングの言葉を待ったが、すぐの応答はなかった。どうしたのだろうか、と視線を向けてみるとスプリングマンがもじもじと手遊びをしているのが見えた。
「ア……ア……すぷりんぐ、です……ヨロシク、お願いしマース……」
 聞こえた声は蚊が鳴くほど微かである。よくよく彼の顔を見てみれば、目の周りが真っ赤に染まっていた。
「フフ、あれだけ飛んだり跳ねたりしているのに、意外と恥ずかしがりやなんですねぇ」
 スプリングの様子を見ていたからだろうか、へこんでいたプライドが少しずつ回復していくのをシェードは感じていた。お化け屋敷で働いていた、いわば人を驚かせるために生まれたロボットが、弱点だったとはいえ、狼狽するほどの衝撃を与えられたと言う事実にショックを受けないはずがないのだ。
「だって、貴方……その、素敵で、カッコイインですもの」
 もじもじとしていたスプリングは、あちらこちらに瞳を動かしてようやっと腹が決まったのか、ぼそりと呟いた。
「素敵、ですか?」
 贈られた物にシェードは目を見開く。長く稼働してきたが、そんな賛辞を与えられた事はほとんどなかった。
「はい。博士達が、貴方の入ったカプセル、持ってきた時、私眠っている貴方を見て、メタルマンが読んでくれた、本に出てきた王子様みたいだって、そう思いまシータ」
 スプリングは丸い目をほんの少しだけ狭めた。染まった頬の色から、きっとその絵本の事を思い出しているのだろう。シェードは黙って彼の顔を観察していたが、ふと心が暖かくなり始めている事に気が付いた。
「……だから、私、こっそり、カプセルで寝ている貴方を見ていまシータ。どんな声なのか、仲良く出来たらいいなって……。本当は、あんまり見に行っちゃだめって言われまシータ。驚かしてしまうかもしれない、不具合が出るかもしれない、言われてて、でも……」
 高い声がだんだんと曇り、ポツポツと雨が降り始める。大きい瞳がゆらゆら揺れているのは、きっと気のせいではないだろう。
「あの時、私、うっかり起動ボタン押してしまいました。……ごめんなさい、起きてすぐに驚かせてしまって。びっくりさせて、ごめんなさい……」
 しょんぼりとしたスプリングは涙塗れの声で、もう一つごめんなさいと付け加えた。シェードはしばし口を開かなかったが。
「……怒っていませんよ。大丈夫です」
 スプリングの顔に手を添え、ゆっくりと自分の方へと向けさせる。戸惑いと恥ずかしさからだろうか、緑色の瞳だけは逃げ回っていた。
「悪い事をしようと、そう思ってやったんじゃないんでしょう? それなら怒ったりはしませんよ。……びっくりはしましたけど」
 跳ねる物が苦手だとは言わなかった。すっかり委縮しているスプリングを傷つけたって、良い事など何もないのだから。
「そう、デスーカ?」
 自信なさげなスプリングは上目遣いに尋ねてくる。シェードはこの時、腕の中のロボットを可愛い人だと、心の底から思ったのである。
「そうですよ。……貴方みたいに歓迎してくれる方や、ワイリー博士のように必要としてくれる方がいて、私はとても嬉しいです。ここに来ることが……」
 続きを言おうとした瞬間、今度はシェードが腕を掴まれた。
「う……う……嬉しいデースッ! ありがとうデス、シェード!!」
「え、ちょ、待ってっ、あ、ぎゃあああ!!」
 どうもスプリングマンと言うロボットは、嬉しくなると見境がつかなくなるらしい。
 探し回っていたフラッシュマンが、飛び上がりすぎた為に天井から足だけ出している二人を見つけるのは、それから三分後の事である。

 終わり


 むかーし、とあるサイトさんで見た陰さんと発条さんのイラストで妄想がたぎって隙になった陰発条(ちなみにそのイラストはCPではありませんでした)バトチェのレースの参加目的「体を重くするパーツがほしい(確かこんなだったはず)」も、実は陰さんとデートしたいから、だったら可愛いなぁと思うこの頃。
 こんな目に遭いながらも、陰さんは発条さんを嫌ってはいなかったりします。大人しくしていたら、発条さんは可愛いのです。

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