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【2024/04/25 19:05 】 |
フェアリーケーキ (潜水喞筒)
潜水喞筒
きっかけのような話です。



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 渡されたレポートに載っていた写真を見た時に思った事は、顔が自分とどこか似ているだけだった。
「DWN.074……新しくロボット連盟に登録された彼のナンバーだ」
 故意にしろ過失にしろ、人間に危害を加えたロボットは本来のナンバーが抹消され、連盟から新たな物が与えられる。それがどれほど不名誉な事であるか、言うまでもないだろう。人間でいえば、自身の名前を取り上げられるのと同義なのだ。
 説明をしたコサック博士の表情はひどく苦み走っている。あの時の……自分達がワイリーの命令で世界征服に加担していた時の事を思い出しているに違いなかった。
「ダイブにちょっと似ているわね」
 重苦しい空気を破るように、肩越し覗いたカリンカはそう言いながら目を細める。その柔らかく明るい声のおかげだろうか、紙を掴んでいる手から、ほんの少しだけ強張りが消えた。
「でもよく見るとこの子は目が細いし、頬もすっきりして大人っぽい……それでも、遠くから見たら、兄弟機って勘違いされそうね」
 パパ、開発に関わった? 無邪気な質問に、不惑に差し掛かろうとしている科学者の顔から緊張が解けていった。
「それで博士、俺が一年間この……ポンプマンの面倒をみるんですか?」
「そうだ。経過観察の為に、私の所では彼を含め四体、ロボットエンザによる熱暴走を起こしたロボットを預かる事になっている。ポンプマンは下水処理場の浄水管理に携わっていて、ワイリー博士によって強化された能力も水が関わっている。だから耐水性に優れた者が保護観察官になった方がいい……と言う事になったんだ」
 最もそんな心配はいらないと思うがな。付け加えたコサックは疲れたように息を吐いた。
「保護観察って……俺、そんな大層な名前の仕事、出来る自信ありませんよ」
 ダイブは基本、深く物を考えない性質である。元々そういう気質ではあったが、海洋パトロールの仕事に就き、パイレーツを相手にしている現在、その傾向に更なる拍車がかかったような自覚があった。
「何、そんな難しい仕事じゃない。普段の様子を記録して、ポンプマンが心細そうにしていたら相談相手になる、それくらいだったら出来るだろう?」
「そんなくらいでいいんですか? もっとこう、難しい感じの事をするんだと思いましたけど」
 予想よりも簡単な内容に、ダイブはほっと胸を撫で下ろした。いや、これも難しいと言えば難しいが、細かい数字を扱うよりずっと楽であった。
「検査とかはお父様やライト博士がするから問題ないわよ。大丈夫、ダイブなら出来るわ」
 暖かい小さな掌が肩に触れる。太鼓判を押す様に、コサックは笑顔で頷いていた。
「そういうのでしたら……わかりました。やってみます」
 にっと笑ってそう返事をしてから、ダイブは今一度レポートに目を向ける。少し固い表情が写っている写真を見ながら、どんなロボットなのだろうと、思い巡らしたのであった。

 このような経緯でやってきたポンプマンは、ダイブが予想していたよりもずっと穏やかで、人当たりの良いロボットであった。いささか遠慮がちなところがあるものの、兄弟やパイレーツマン、バブルマン、ウェーブマンと言った、一癖も二癖もあるロボットに比べたらなんと言う事はなかった。保護観察などと言う堅苦しい状況での出会いであったが、ロックやスプラッシュのような知り合いが増えたようで、ダイブは素直に嬉しかったのである。
 熱暴走を起こしたロボット達を引き取って三か月程たったある日、ダイブは遅い帰路に着いていた。本来ならもっと早くに帰れるはずだった。しかし入港した船から密輸品が発見され、そこから大乱闘が始まってしまったのだ。
 幸い犯人達を捕らえる事に成功したが、事件報告書類の作成や取り調べなど、明日からの事を考えると足取りは重い物になっていた。
 息を吐いて、一度顔を上げる。大通りに面した家に灯る明かりは少なく、聞こえる音も遠くを走る車の排気音だけだった。
「もう皆寝てるだろうなぁ」
 肩をぐるりと回し、重い物を振り払う。本来の予定なら、ポンプの経過報告を書くはずだったが、それをする体力は残ってなさそうである。
「ちょっと腹に入れたら……ああ、寝た方が良さげだな、こりゃあ」
 気を紛らわせようと呟いた言葉に頷き、ようやくたどり着いた研究所の鉄柵をダイブは開ける。疲れのせいだろか、扉がいつもよりも重い物に感じられた。
 ただいま、と小さな音を口にする。遅くまで起きている事の多い、リングやファラオ、コサックも仕事で今日はここにはいない。だから建物の中は真っ暗だ、と予想していたのだが。
「……あれ?」
 廊下の先、リビングからぼんやりと明かりが灯っている。こんな遅い時間に、と首を捻りながらダイブは扉を開けた。
 明るいリビングに響くのは時計の音だけだった。消し忘れたのだろうか、と息を吐きながら辺りを見回したその時、ダイブはソファーに座っているポンプを見つけたのである。
「ポンプ……? ポンプ」
 頬を数回、軽く叩くと、ポンプは閉じていた目をゆるゆると開けた。
「大丈夫か? まさか、どこか具合が悪いんじゃ……?」
 不具合によるものだったならば、急いでコサックに連絡しなければならない。焦るダイブの顔を、起きたばかりのポンプはぼんやりと見ていたが、事態に気づいてすぐに首を横に振った。
「だ、大丈夫です。ダイブさん待っていたら、うっかり寝ちゃっただけで……」
「待ってた……?」
 落ち着いてと言うように添えられた掌に気づき、ダイブは返事の代わりに大きく頷いた。
「ダイブさんを出迎えようって待っていたんです。途中まではカリンカさんも一緒だったんですけど、だいぶ遅くなってきたから、先に寝てもらったんです」
「出迎えってそんな……」
 もっと深刻な理由かと思ったら。出そうになった言葉を飲み込んだのは、ポンプが本当にすまなそうな顔をしていたからだった。
「ごめんなさい、迷惑をかけてしまって」
「ま、まあいいんだけどさ。でもなんで出迎えなんてしようとしたんだ?」
 気まずさにポンプの手が遊ぶ。ほんの少し視線を逸らしながら、彼はポツポツと言葉を漏らし始めた。
「自分がされて、嬉しかった事をしてかったんです。……ボランティアの清掃活動から帰った時、カリンカさんとブライトさんが出迎えてくれたんです。お帰りなさいって言ってくれて、僕、それがとても嬉しかったんです。そういったのって、今までなかったから」
「そういったのって……出迎えがか?」
 ダイブは思わず目を見開いた。
「僕はずっと寮で暮らしてきましたから。ロビーにたまたまいた人がお疲れさまって言ってくれる事はありましたけれど、お帰りなさいって、言ってくれる人はいませんでした」
 最初はポンプの言っている事に納得が出来なかった。が、少し考えてから、彼の方が当たり前なのだと言う事に、ダイブは気づいたのだ。
 基本、ロボットは働き手である。引き取り手の企業や研究所に住み込みで労働し、開発者の元へはメンテナンスに行くくらいで、二度と訪れないと言う事もざらである。更に人間との関係も非常にドライである。よほど気に入られない限りは、雇い主と従業員と言うくらいの物でしかない。自分達やロックの様に、開発者の元で暮らし、更には家族の様な間柄になっている方が少数なのだ。
 喉の奥を、いくつもの塊が転がり落ちていく。今更気づいた事実の重さに、ダイブは声を出す事も出来なかった。
「あの、その……すみません。自分が嬉しかったからって、人にもって、迷惑でしたよね」
 申し訳なさそうな顔をしたポンプが、恐る恐るこちらを窺って来る。ダイブは首を何度も横に振ると、強張った頬を解して笑顔を作った。
「そんな事はないよ。待っていてくれてありがとうな、ポンプ」
 白く丸い肩をポン、と叩いた。リビングの明かりを奇妙に思った、それは確かである。だが、誰かが起きていてくれたと言う喜びを感じていたのも事実だった。
 ポンプの表情から戸惑いが薄れ、笑みが広がっていく。その朗らかさに、どうしてだろうか、胸の辺りがぎゅうと締め付けられる。苦しい事は苦しいのだが、しかし悪い物には思えなかった。こんなもの、今まで感じた事は一度だってなかった。
 初めて感じた物に戸惑いながら、ダイブは心を軽くする為に大きく息を吐いた。
「……でも病み上がりだから、あんまり無茶はしてほしくないな。今日くらい遅かったら、休んでもいいぞ。何かあったらって思うと、心配だしな」
「あ……はい、気をつけますね」
 ポンプの声を聴いて気が緩んだのだろうか、急に空腹が感じられた。
「……それはまあ、次回気を付けてもらうとして……体に問題がないなら、ちょっと夕食に付き合ってくれないか? そっちの方が食べて気がするからさ」
「……はいっ、喜んで!」
 誘いの言葉に、ポンプの顔が一段と綻ぶ。その表情に胸がまた強く押しつぶされる。その重さは食事が終わっても残っていた。良く分からない、だが悪くはない重さの正体にダイブが気づくのは、この日から二か月後の事である。

 終わり
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【2016/09/06 17:30 】 | SS | 有り難いご意見(0)
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