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【2024/03/29 07:28 】 |
私と弟(カリンカとスカル)
4の後の話
捏造設定とかあります


拍手[1回]



 そこここが作りかけの様になっている廊下を、カリンカは乱暴な足音を鳴らして歩いていた。時々すれ違う、メットールやピッケルマンは、彼女に気づいて近寄ろうとしたが、立ち上る気迫に気づくとすぐさまに離れて行った。
 カリンカはご機嫌ななめだった。父や兄弟のようなロボット達が、自分を抜かして、なにか重要そうな話をしているからだ。
「全く、皆して、私を子ども扱いするんだから!」
 ブライトからダイブまで、父が手掛けたロボットは、皆自分の兄弟だと、カリンカは聞かされて育ってきた。その理論の元、年齢を考えれば、自分は一番上のはずなのだ。百歩譲って、同じ年に生まれたブライトは兄と見ても良いが、それ以外の者達は、いわば弟にあたるのである。
「私がお姉さんなんだから、話し合いに参加する資格はあるのに」
 姉たる自分を差し置いて、弟達が父と大切な事を決めている、と言うのが腹立たしくて仕方がない。怒りに任せて足を進めて行ったが、空気の重さに気づき、ふと歩みを止めた。
「あら、ここ……」
 そこは父から、近づいてはいけない、と口酸っぱく聞かされていた場所である。ロックマンを足止めする為に設置した罠が、まだ撤去しきれていないから、と言う理由からだった。
「……別に、大丈夫よ」
 苛立ち、と言う物は気を大きくさせるらしい。鼻息荒く、カリンカはドアを開けた。
「……あら?」
 板一枚向こう側の光景に、彼女は首を傾げた。ドアを開ける前まで、落とし穴や棘天井など、物騒な物がひしめく世界を想像していた。しかし現実は、ほとんど殺風景に近い、物が少しあるだけの部屋、なのである。
「……そういえば、ここって確か、物置だったわよね」
 騒動以前の世界を思い出しながら、恐る恐る中へと足を踏み入れる。踏みしめた床は、記憶にあるものと何一つ変わっていなかった。別段、物騒な物が置いてある様子はなく、いささかの肩透かしを感じたその時だった。
「誰かそこにいるのか」
 ドアの陰となっている、部屋の隅から声が聞こえた。ロボット特有の、人工的な音である。それだけならば、カリンカも驚きはしなかった。何しろ彼女は、生まれてその大半を、鉄鋼で作られた兄弟に囲まれて暮らしてきたのだから。
「誰かいるの?」
 ぞっとした物を感じたのは、話しかけてきた者の声に、温かみがさほどなかったからだ。兄弟達は、自分と、そして人との関わりを持つと言う関係から、発する音声には熱と柔らかさが込められている。しかし、今聞こえた物には、それらが極端に少なかった。まるで、そう、ワイリーの所にいたロボットと同じなのだ。
 乾いた口を絞り、無理やりに唾を飲み込む。意を決して、壁を作っているドアを、ゆっくりと動かした。
 向こうから、動く気配はない。気のせいかもしれない、と小さな期待を持ちながら、障壁を取り除いてゆくと、白いボディが見えてくる。肩の部分は、父のロボットが持つ特有の丸みがあり、ほっと息がつけた。が、その正体が髑髏であると分かった瞬間、再び緊張が張りつめた。
「貴方、誰?」
 全身が見えるようになり、カリンカは恐る恐る声をかけた。現れた彼に見覚えはない。そういえば騒動が起こる前に、父が新しいロボットを手掛けていると言う話を、ダストがこっそり教えてくれたけれど、果たしてそれなのだろうか。それにしては、聊か物騒なデザインではあるが。
「スカルマン、と、博士達は言っていた」
 彼は言葉を投げ出してそう答える。複数形に最初は頭を傾げたが、カリンカはすぐにそれが父と、自分を攫ったワイリーを指している事を悟った。
「スカル、ね。確かに、そんな感じの名前ね」
 名付け親はワイリーの方だろうか。少なくとも、父でない事は確実である。彼ならばそのような名前を、いや、僅かを目にしただけで恐怖に陥ってしまうような、そんな姿に作るはずがないのだから。
 彼も、スカルも、あのワイリーの作ったロボットのように怖いのだろうか。息もしにくい沈黙の中でカリンカは考える。自分を攫ったワイリーナンバーズは確かに恐ろしかったが、中にはヒートマンやウッドマン、スパークマンのように親切にしてくれた者も、一応はいたのだ。
 果たして、彼はどちらなのだろう。見た目だけを考えるならば前者なのだろうが、それだけで判断するのは良くない事である。まずはこちらから動いて考えた方がずっと良いはずだ。
「貴方、どうしてこんなところにいるの?」
 決意を固め、目の前のロボットに話しかける。怖々としている自分を見つめる赤い目は、ちっとも震えていなかった。
「博士に、ここにいろと言われたから、だ。俺は戦闘用だから、下手に動いてしまったら、大変になるかもしれない、と」
 彼の言葉を聞いてからその腕を見ると、確かに片方がバスターとなっている。
「ここにいて、ずっとじっとしていたの? 本を読んだりとか、そういう、したい事ってなかったの?」
「オレが下手に動いて、博士に迷惑がかかったら大変だから。それに、俺は戦う以外の事は、よく知らない」
 言葉の響きから、スカルが嘘をついていないのはわかった。嬉しい事に、彼は戦闘用ではあるが、ヒートマンやウッドマンと同じタイプであるようだ。
(そりゃあそうよね、お父様が作っているんだもの)
 例えワイリーの手が加わっているとしても、父が携わっていれば、どんなロボットだって良い方に転がる。カリンカは頑なにそれを信じていた。
「……ところで、さっき言った、本、ってのはなんだ? どういう物なんだ?」
 感心して頷く少女の耳に届いたロボットの言葉は、信じられない物だった。驚愕して、目を丸くしたカリンカは、呆れたように肩を竦めた。
「貴方、本を知らないの?」
「ああ。あんたは、知っているのか?」
「あんたじゃなくて、私はカリンカよ……って、今はそれどころじゃないわ。貴方、本当に、本、を知らないの?」
 確認の言葉に、彼は黙って頷く。
(それくらい教えといても減らないってのに。ワイリーもひどいおじいちゃんね!)
 強い眩暈を覚えたが、それはすぐに立ち消えた。代わりにむくむくと膨らんでくるのは、ある期待である。
「じゃあ、貴方、テレビも知らないの? バレエも、オペラも、映画も、知らないの?」
 高鳴りそうな物を必死に抑えつけたせいか、飛び出した声はいささか小さかった。全てを言い切り、彼女がただじぃっと、目の前のロボットを見つめていると、白い彼は一つ、目を瞬かせた。
「なんだ、それは?」
 期待が確信へと変わった瞬間、少女の顔にぱっと明るくなり、すぐに目一杯の破顔に変わったのである。
「本を知らないなんて、これから生きていくのに大変じゃない! 私がじゃあ、まず、本って言うのを教えてあげるわ!」
「そうなのか。じゃあ、教えてくれ、カリンカ」
 スカルの言葉が、体にしみじみと染み渡る。……弟にあたるロボット達は、仕事の都合からカリンカが持ち得るよりもずっと多くの知識を持っていた。故に彼女は、人間の姉が、弟妹にするように、物事を教えると言う快感を覚える事が出来ず、ほんのわずかな矜持には常に小さな棘が刺さっていたのである。
「もちろんよ! 今から、本を持ってきてあげるわ!」
 カリンカは勢いよく部屋を飛び出したが、すぐにその足を止めて、軽やかに後ろを振り向いた。
「……っと、そうだわ。スカル、貴方は私の弟なんだから、私の事は、お姉さんって呼びなさい」
「わかった、お姉さん」
 素直なスカルは、一つ頷いてそんな嬉しい言葉を送ってくれる。興奮のあまり悲鳴を上げそうになったが、それを必死に飲み込んで、カリンカは自分の部屋へと駆けて行った。


 コサック研究所のリビングは、この建物の中では広い部類に入る部屋である。住人であるロボットが大勢いる事や、臨時の物置にする為にそれなりの面積を確保したのだが、今は居場所を奪われてしまった家財類が腰を据えているので、本来の半分ほどの広さしかなかった。
「確認をした限り、スカルのCPUはその半分が戦闘用としての機能に割かれている。……あいつは我々と異なる、生粋の戦闘用ロボットなんだぞ」
「ばかだなぁ。半分だけだろ? なら後の半分をこっちの知識で埋めればいい話じゃねえか」
「だからお前は脳筋なんだ。あのワイリーだぞ、見えない領域で何を仕込んでいるかわかってもんじゃないだろうが。もしお嬢様に何かあったらどうするつもりだ」
「えー、でもいいアイディアだと思うぜ? お嬢さんなんか、きっとノリノリでいろんな事、教えるだろうな」
「きっとそうだろーな。んだども、もしもがあったらそれこそお嬢様が可哀想だ」
 そこに一人の人間と七体のロボットが雁首揃えて滞在しているのだから、空気の密度はいよいよ濃くなり、室温も比例して上がっていた。
「処置を施すべき、が二人、そのままでよい、が二人、あと三人はまだ決めかねている、か……」
 コピー用紙に文字を書きつつ、コサックは呟く。その声を聴くロボット達は、それぞれの顔色を窺いながら、何とも言い難い、気まずい表情を浮かべていた。
(スカルに聞いても、自分の処遇はこちらに任せる、としか答えてくれなかった……)
 もし、彼が何かの望みを口にしたならば。そこまでを考えて、コサックは自嘲の笑みを浮かべた。……その望みが浮かばぬようにしたのは、戦闘の知識しか持たせない、というワイリーの意見を飲み込んでしまったのは自分なのだから。
 ……このような非常に重い空気が漂っているのは、話し合いの議題が、スカルマンの処遇についてだからだった。もし、彼が最初からワイリーの手によって生まれていたのなら、彼等はすぐに何らかの処置を施していただろう。しかし、スカルのその半分は、コサックによって作られた物なのだ。
 濃い間柄によって生まれた情は、冷静な判断をかき乱す物である。話し合いが始まってから、優に二時間は経とうとしているが、結論はなかなか出す事が出来なかった。
「あの、ちょっと、いいかな」
 意見のまとまりが見えぬ中、困った顔で一同を眺めていたブライトが、そっと手を上げた。
「なんだい、ブライト?」
「あの、この話し合い、お嬢様にも参加してもらった方がいいと思うんだけど」
「お嬢様に?」
 長兄の一言に、場は水を打ったように静まり返った。言葉を述べたブライトは、その結果に慌て、手遊びしながら困ったような笑みを作っていた。
「処置をするにしろ、今のままにするにしろ……何かがあった時、一番傷つくのは、女の子の、子供のカリンカお嬢様なんだと思うんだ」
「そうだよね、もしスカルが何かで攻撃態勢に入ったらお嬢様はケガするだろうし、……スカルに処置をして、彼が今の彼でなくなったら、それはそれで傷つくと思う。今まで、博士はそんな事、しなかったもの」
 ブライトの言葉を補完するように、ダストは呟いた。思っていなかった方向からの意見に、他の者はただ唸る事しかできなかった。しかし……改めて考えてみれば、全ての意志の根底には、カリンカの為、という物があったのだ。
「……カリンカに意見を、か……いいかもしれないな」
 沈黙の中、口火を切ったのはコサックであった。顔を上げ、ちらりと手掛けた子供たちに視線を送ると、彼等は合図の様に小さく頷いた。
 話し合いの場にカリンカを呼ぶ事、ついでに休憩にする事を決め、やれやれと一同は席を立つ。未だに改装が手つかずの廊下を歩く中、隣を歩いていたブライトが小さく笑いかけた。
「お嬢様、もしかしたら喜ぶかもしれませんね」
「……そういえば、こういう重要な事に参加させるのは、初めてだったな」
 呟いて、ふと周囲を見ると、ドアが一つ開いていた。普通なら始末の悪い、と思うだけだったが、それがどこに通じているかを理解した瞬間、コサックが顔色を失った。そこは、そう、スカルを待機させている部屋なのだ。
「まさか……!」
 すぐさまリングの呼び出しと、他の者には警戒をするようにブライトに指示を出し、コサックは部屋に飛び込んだ。
「スカル……?!」
 緊張の中にいた彼は、飛び込んできた景色に思わず脱力した。
 何もなかった部屋の床には様々な本やお菓子が広がっている。元々いたスカルは、ごちゃごちゃとした物に囲われるように座り、彼の隣には、愛娘が本を広げて笑っているのだ。
「カ、リンカ……?」
「あら、お父様どうしたの? そんなに慌てて……」
 来訪した父に気づき、カリンカは対照的に屈託のない笑みを浮かべる。恐る恐る覗いてきたブライトは、光景を理解した途端あら、と素っ頓狂な声を上げた。
「こんなに散らかし……じゃない! カリンカ、どうしてこの部屋に!」
「あちこち見ていたら、この部屋を見つけたのよ。それよりもお父様、これはどういうことなのよ!」
 話をはぐらかすように、カリンカは声を荒げてスカルを指さした。
「これは……ってのは」
「スカルよ、スカルの事! この子ったら『穴抜け鼠の大冒険』も知らなきゃ、ガーベラみたいな花も、チョコレートの事すらも知らないのよ! だめじゃないよ!」
 彼女の言葉を元に、改めて部屋に広げられている物を眺め、コサックとブライトは何とも言い難い笑みを浮かべる。
「だからお父様の代わりに、お姉さんの私がスカルに色々教えてあげてるの。スカルったら、呑み込み良くてすぐに覚えてくれるのよねー」
 得意げに胸を張り、カリンカはスカルの丸い頭を撫で擦る。撫でられているスカルの方も、まんざらでもない、と言う顔で、彼女の掌を受けているのである。
「……ブライト」
「はい」
「なんか、問題とか一切なさそうだな」
「……ですね」
 連絡を受けたリングが駆けつけてくるまでの、その短い間、コサックとブライトは、部屋の中の二人の微笑ましい光景に目を細めていたのである。


 かくて、スカルはそのまま、コサックの家に受け入れられた。当初は戸惑いを隠せなかった者達も、次第に打ち解けて行ったのである。
 が、無骨なスカルが、幼いカリンカを姉さんと呼ぶのはちょっと、と言う事となり、話し合いの末、二人きりの時にその呼び方でと言う約束が決まった為、カリンカはいささかご機嫌ななめになったのは、また別の話である。

終わり


 以前書いた話と違う所があったらすいません。
 スカルはコサック博士が元から作っていたけれど、製作中にカリンカが攫われて、ワイリーとの共同作品になっちゃったと言う感じです。骨格とかコア辺り→コサック、武器とデザイン→ワイリーという感じ。
 後でコサックさんちの捏造設定をまとめた奴を上げときます。
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【2014/08/22 20:11 】 | SS | 有り難いご意見(0)
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