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【2024/11/25 19:53 】 |
神様の言うとおり(コサック博士+α)


9の後辺りの話
オリジナルのキャラが出ます

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 イーニーミーニーマイニーモー、トラのつま先捕まえろ……

 公園から子供達の選び歌が聞こえる。秋の色はいよいよ濃く、街路樹は地味な衣に着替え、静かな季節をただひたすらに待ちわびているように見えた。
 このような時期に聞く、足音が心地よい、と歩行速度を速めながらコサックは思っていた。特にこのような、閑静な住宅街に響く音なぞは、心を落ち着かせる力を持っているように思えてくるのだ。
(帰りに喫茶店にでもよるか。ああ、ついでに甘い物を一つ頼むか)
 こういう日はまっすぐ家に帰らず、遠回りするのが良い。じんわりと体を温める物を思い起こし、一つ息を吐いた。目的地はもうすぐである。帰りの褒美を想像しながら、彼の足はますます速くなったのである。

 目的地である、ロボット工学者ジム・マグニエル博士の家は、穏やかな彼に似合いのログハウスタイプのものである。通された部屋には古めかしい暖炉があり、その中で遠慮がちに灯る炎は穏やかで見るだけで暖かになれた。
「……ランプ社製のモーターが良いと思うのですが、どうでしょうか」
「ランプ社製は陸上での仕事には良いんだが、水中となるねぇ……特に主流となっている……」
 持ち寄せた資料類を着き合わせ、差し向かいで話し合う。マグニエル博士は、ロボット工学に置いてライト博士と並ぶ古参であり、温和な性格の為に、その世代では比較的「心」を持つロボットに対して肯定的な人物である。……そんな彼の調子のせいだろうか、自身が学生になり講義を受けているような気分になってくる。分からぬように口の端を上げながら、コサックは会話を続けた。
「……少し疲れたな、コサック君、ちょっと休憩しよう」
 目頭を押さえながら、マグニエル博士は溜息混じりに提案する。時計を見れば、話し合いを始めて既に一時間半は経っていた。
「そう、ですね。少し休憩と行きましょう」
 書類を整え、コサックが笑顔でその提案に賛成すると、老博士は自嘲のような笑みを浮かべた。
「情けない話だ。若い頃は夜通し話し合っても疲れなんぞ感じなかったがね。このごろはさっぱりだよ」
 若者に倣って動かす老人の手の皺は深く、浮かび上がった血管は皮膚の張りとは反比例に膨れ上がり、痛々しいほどである。ライト博士より三つ四つ、年を重ねただけのマグニエル博士はしかし、その気質のせいで大分年寄りだった。
「何を言いなさいます。まだまだ、お元気ですよ博士は。先ほどの話からわかります」
 コサックの言葉に、老人はありがとう、と礼を呟き頭を垂れた。
「ありがとう、しかしね、コサック君。私はもう年寄りになった。昔は信心からとんと離れた所に思考があったが、今ではすっかり、神の影に怯えている毎日なんだよ」
「神の影?」
 鸚鵡返しに、マグニエル博士は頷きで答える。コサックは少し首を捻った。失礼な話、死の影であるならば理解できるのだが、神の影とは一体なんであろう、と。
「私は若い頃はね、ただ無心にロボットを作っていた。優れた物が出来れば、それだけで鼻が高かった。更に優れた物を作る為に向かい合い、更に……他の者たちと、そんな事を繰り返してきた。それが正しいと思ったのだ」
 でも。安楽椅子に身を沈め、博士は遠い目を作ってみせた。それがあまりに空虚であったので、コサックはぎょっと、息を呑んだのである。
「今、この世界にはたくさんの優れたロボットが、人間に勝るとも劣らぬロボットが繁茂している。私はそれに満足していたし、それがよいと思ったのだ。ところが、だ。六十の坂を越えた辺りから、私の頭に一つの考えが浮かぶようになったんだ」
 暖炉の中で、くべた木が一つ爆ぜる。それは普段であれば暖かさを演出する、心地よい音色であるはずなのに、今はイタズラに緊張を張り詰めるだけだった。そしてその音と共に、部屋の温度は次第に下がっていったのだ。
「優れた頭脳を持ち、豪腕で、各々に力を携えた者。その性格は程度はあれど、人間より穏やかであり、傍若無人を笑顔で迎え、老いや病はなく、死からも遠い場所にいる……」
 老人の声は真に迫り、教会での告解に近くなる。血の吐くような叫びを耳にしていると、なぜだろう、こちらの口の中にまで鉄の味が広がっている。
「……人間が、そのような物を作り出して良かったのか、もしかしたら、私はとんでもない物を作り出す手伝いをしてしまったのではないか、と、神が創りたもうべき物を、造ってしまったのかしらん、と」
 軋んだ音を立て、マグニエル博士は顔を上げ、そして泣き顔と笑顔を半分に混ぜたような表情を浮かべたのだ。
「うぬぼれ、かもしれないがね」
 冷えたのだろうか、老人は皺だらけの手を擦り合わせ、息を吹きかける。対するコサックは掌の汗と、喉の痛みが気になって、声を出すことが出来なかった。
「怖くなった、んだよ。内からの死のない彼らが、外からの手がなければ、いいや、それすらあっても一つが残れば永遠と生き続けられるだろう彼らが。……私は、恐ろしくなったのだよ」
 神の領域に足を踏み入れたかもしれんのが、これほど恐ろしいとは。
 静寂の空間に聞こえるのは、炎の燃える音と、子供達の選び歌だけだった。


 香ばしい香りのする、苦いコーヒーを喉に落とし込む。温かい物は体幹を温めるばかりで、冷え込んだ手先にまでは染み込んでくれなかった。
「神の影」
 言葉を反芻するが、しかしコサックが彼の恐れる領域に辿り着く事は出来なかった。考え方の違いもあるやもしれないし、若いから、かもしれないが、正しい物は見つからなかった。
 ただ、ライト博士と並ぶロボット擁護者であったマグニエル博士が、なぜロボット新法を賛成したのか、コサックはやっと理解することができたのである。


終わり



 こういう事を気にして賛成にまわった人もいたかしらーと思って。そうじゃなくても、なんかロボット新法制定&廃止の前後って色々ゴタゴタしてて、もしかしたらゴルゴに出せそうな事柄が起きたんじゃないか、とちょっと妄想できる。
 あとコサック博士ってロボット連盟で発言権ってないんかね。あっても賛成派の波に飲まれてしまったのか、それともワイリーのせいとは言え、4の辺りの事が足を引っ張っているのか、ロボット製作は手がけているけれど影響があるほどじゃないのか、或いは年齢のせいなのか。……忘れられていたってのはなしで。
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【2013/08/28 00:22 】 | SS | 有り難いご意見(0)
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