人間なら一つで十分な物も、ロボットとなると、いくつも必要であるらしい。
そのいくつもに支えられながら、私はかつて、夢を見ていた。
膨大な文字の海を泳ぎ、バグの底を蹴り上げ、何度も何度も、空を目指そうしていた。
「この海は居心地が悪い」
誰かが、そう囁いてくる。無視しても問題はなさそうなので、別段返事をする事もなかった。
「でも、あの海よりはずっと心地がよい。アナタもそうでしょう?」
気づけば、隣に自分以外の誰かがいる。でも、今の自分の目には、ただの黒い塊にしか見えないのだ。
「本当の海を泳ぎたいのです。あそこは、胎内のように心地よいと聞きますから」
またいつか、必ず会いましょう。黒い塊はそう言って、自分から離れていく。再び、文字の海に一人残されたのだが、どういう具合なのだろう、何かが胸を締め付けるのだ。酷く苦しくて、辛くて、どうしようもなく、私は海上へと向かってただひたすらに足を動かした。
濃い色の海は次第に薄くなり、白へと変わって、そして。
「おや、どうした、珍しい」
プラスチックの、溶液で満たされた筒の中、広大な世界から急に狭い所に移動していた。……いや、元々、体はずっとここにいたのだ。ただ、意識だけは深く暗く、寂しいところにいただけで。
プラスチック越しにいる老人は、計器を叩いて唸った後、不思議そうにこちらを向く。
「知能回路の感情部分に少々乱れがあったみたいだな……何かあったのか?」
尋ねられ、答えようとしたが、口は少ししか開かず、閉じる事を望んでいた。頭も、そちらの選択を薦めてくるものだから、ただ、返答の代わりに首を振った。
「ふうん……まあ、大方夢でも見たのかもしれんな。テスト段階でもそういう物を見るというのが、よいかどうかは、なんとも言えんが」
老人は自分にはわからない事を呟きながら、向こうへと行ってしまう。筒の中に座り、まだ残留する痛みを、私は黙々と食していた。
大分経って、この時に抱いた痛みの正体が、孤独と言うものだと、私はようやく知ったのである。
終わり
平成版009のED「genesis of next」を聞いていたらこんな事に。電子音で塗れているんだけど、なんか幻想的と言うか、そんな感じになったもので、つい。
(以下、関係ない話)
平成版本放送当時、私が住んでいる所にテレ東系列は全くなく、東京にいたら009見れるのに! と6時半になるたびに歯噛みした物です。まあ映像は見れなくてもCDは手に入るので、本編BGMやED、OPが収録されている奴を買ってよく聞いていました。
ちなみに平成版009は後で全話見る事ができました。原作だとチョイ役(アニメでも、ですが)のコズミ博士が好きになりました。
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