時間は流れる。時に矢の様に、時に鈍牛の歩みの様に。楽しい時間は矢の如し、会った時はあんなに白かった空気の色は、すっかり茜色に変わっていた。
大海と大空の間にある岩に腰掛け、バブルとスプラッシュはじっと黙っていた。別れまであと数刻と言うのはわかっているが、それゆえに何もできなかったのだ。並んで座っているがほんの少し距離を開け、ぼんやりと漣にただ耳を傾ける。
それでも、とスプラッシュはバブルの方に少しだけ視線を向けた。ただ時を食いつぶすよりもなにか建設的な事を彼女はしたかったのである。しかしその思いと裏腹に口は動かず、仕方無しに視線を下げると、影が見えた。
(――あら)
黒いものが見えた瞬間、彼女は心の中で声を上げる。地面に映し出された二人の姿は、微妙な光線の加減のおかげか、それともせいか、手を繋いでいるようになっていたのだ。
(影だったら簡単に出来るのに)
体を微妙に、隣に座る彼に気づかれないように動かしてゆく。繋がる部分は手へ、肩へ、とどんどんと広がっていった。
(こう、頭をくっつけたら……)
二人の顔同士が重なり、影の中でキスが出来た。
(影だと本当簡単に繋がるなぁ)
――こんな風にどんどん繋がっていったら……。
「あの、さ、スプラッシュ……?」
バブルが声をかけた瞬間、スプラッシュの顔がみるみる赤くなっていった。突然の事にバブルは心底驚いて、彼女の体を揺さぶるが、スプラッシュが回答することはなかった。恥ずかしくって出来なかったのだ。
(だって、今とってもエッチな事を考えてしまったんだもの!)
茜の色が、濃い藍色へと変わる。その間にいる大慌ての彼と赤くなっている彼女の影はぴったりと一つになっていた。
終わり
スプさんが考えすぎって気もしますね。
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