・グランドマンとドリルマン、ドリルマン視点
・グラドリっぽい感じ……?
・舞台時間としてはロクフォルの後。監視つきでドリルマンと働いている、もしくはドリルマンが監督官。
起承転結が薄い感じの話です。
[3回]
ぼたぼたと目の端から水が零れる。暗い地下道に申し訳程度につけられたライトが、その小さな粒に反射して一際強い光を生み出しているのが、やたらと印象的だった。
「何か、不調でもあるのか?」
俺が尋ねても、グランドマンは答えてくれなかった。泣いていて声が出せない、というわけではないだろう。彼は生来から無口らしいし。
右手のドリルを普通の手に変えて、落ちてゆく水を拭っていく。彼奴は目を大きく見開いたまま、ただ黙って泣き続けている。何かしただろうか、と自分の今日の行いを思い出すが、特に不快にさせたところは、思いつく限りでは一つもなかった。
(とはいえ、俺はがさつだからなぁ)
ナンバーズの中ではダイブと並んで大雑把であり、水道管ガス管に穴を開けたり、計画よりも深く掘りすぎたりなんてしょっちゅうだ。だから、グランドマンを傷つけるような事を知らず知らずに行っている可能性はとても高く――もしかしたら、今のこの行動すら、彼の機嫌を損ねているかもしれなかった。
「……お前の、せいじゃない……」
洞に風が吹き付けたような、低くくぐもった音が頭の上からする。え、と顔を上げると、グランドマンが俺の手を握って、ゆっくりと下に下ろして行くのが見えた。
「……不調でも、お前のせいでも、なんでも……ない」
グランドマンにつかまれた部分が溶けるんじゃないかと思うほど熱い。そこで暖められたオイルが体中を巡って、頭の中まで熱していく。そのせいで外気との温度差が生まれてとても寒かった。
……いや、身体的な理由だけじゃない。俺は、怖かったのだ。グランドマンの台詞を聞くのが。……言葉が紡がれるのが、こんなにも怖く感じられたのは初めてだった。
「じゃあ、なんで」
「……今、馬鹿な事を考えた。馬鹿すぎて、どうしようもない事を考えて、だのに」
グランドマンがこんなに話している姿を見るのは、俺がこいつと出会って初めての事だった。大抵は一言二言を、しかもほとんど相槌みたいなものがばかりだったから。
「だのに、それがひどく頭に響いて、消すことができなかった。頭の中でどんどんそれが膨らんで、……気付いたら、このザマだ」
そう、話している間にも水はどんどんと零れていく。グランドマンは何か続けたかったみたいだけれど、もう声にする事が出来なかったらしく、もう話すことはなかった。嗚咽らしき物と、滴り落ちる音が、奴さんの言いたい事を代弁するかのように、地下通路の中に響いていく。
「なあ、あのさ」
声をかけて、俺は言葉を捜す。こいつを傷つけない、でも最適なものはなかなか出てこない。こういう時、ブライトやファラオ、リングだったら、もっとうまく言えるのだろうに。どうして博士は、彼らみたいな頭を俺につけてくれなかったのか、勝手な恨み言を口の中で作って体の奥に押し込んだ。
「……お前が考えた、馬鹿すぎてどうしようもない事ってさ、そうじゃあないんじゃないか?」
目の前のグランドマンは水を零しながら首を傾げる。言っている俺ですら混乱する言葉だったから、聴いている方はもっとだろう。首を振って、更に判りやすく作り変えようと俺は頑張った。
「お前の考えたのは馬鹿な事でも、どうしようもない事じゃない、って事だ。それはお前にとって、ものすごく重要で、大切で、んで、すごくショックな事なんだよ」
変な風に言っていないだろうか? 不安になるが、俺が目に見えない形で送れる物は、これが限界だった。だから、代わりにずっとグランドマンの手を握っていた。
「だから、だからさ、あのさ、……泣くのは仕方ないし、泣いてもいいと思うんだよ」
ああ、違う。これの前に、もっと別のものを入れたかったのに。後悔しても、空に溶けるものを直す事はできない。しどろもどろになりながら、俺は謝るように手に力を込める。
それから少し位だっただろうか。それとも、もっと長くだっただろうか。ただ沈黙だけが続いていた。それを破る音を作りたくても、俺にはできなくて、それが泣きたくなるほど悔しかった。
「……ありがとう……」
そんな中に下りてきたのは、グランドマンの声だった。恐る恐る彼の顔を見ると、その目から以前水は零れているけれど、表情は少しだけ明るかった。
「……ありがとう、ドリル、マン……」
胸が、柔らかい真綿の糸で締め付けられたような気がした。苦しい事は苦しいけれど、でもそれだけではないような感じがする。どこか優しくて、暖かいのだ。
「あ、の、さ、……俺でよければ、話を聞くけど……」
俺はそう提案するけれど、彼は首を横に振った。
「……ごめん、話せない。……うまく話せる、自信がない、んだ」
でも、とグランドマンは続ける。
「代わりに、……こうしていてもいいか……?」
握り合っている手を少し上げて、やりたい事を提示する。グランドマンの要望を否定するなんて、俺にはできなかった。
明かりが少しだけの、暗い中に座り、何も言わずに手を繋ぐ。ぼんやりと暖かさを感じながら、俺はようやく、グランドマンに初めて名前を呼ばれた事に気づいたのだった。
終わり
新鉄人兵団の主題歌「友達の唄」を聞いてふと思いついた光景を書いてみた……んですが、なんか変な感じです。思いついたものをそのまま絵にしてしまえば良かったのかもしれません。
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