港からほど近い場所にあるその通りには、様々な物売りが、ぎちぎちと音を立てるようにいた。ちゃんとした店構えを持つ者もいれば、ただ布を敷いてその上に品物を並べただけの青空店舗の者もいる。商品の質も種類も千差万別で、新鮮な魚や野菜を売る者もいれば、問屋流れした履物や洋服を商う者もいたし、中には古道具を売る者もいた。通りがかる腹をすかせた客か、それとも商人のためかはわからぬが、屋台を出す者ももちろんいた。
「いらっしゃーーい。いらっしゃーい。花だよー。ひまわりにかすみ草にガーベラー、綺麗な花だよー。」
そんな通りの一角、古いアパートの前にビーチパラソルをさしただけの、急ごしらえの屋根に見合った小さな花屋があった。五つほどのバケツには淡い白やピンク、目の覚めるように濃い黄色や赤など、色とりどりに花弁を染めた花が入っている。
声を張り上げているのは緑色の、小さな丸っこいボディをしたロボットで、彼の後ろには、白く、骨格標本そのもののようなロボットが折りたたみ椅子に座っていた。
「あらトードちゃん、スカルちゃんも一緒なのね。」
声に気づいたらしい、ほッかむりをした中年の女が緑色のロボットに近づく。
「ああマギューさんいらっしゃい。んだ、今日は水遣りが早く終わったから一緒に来てもらったダ。」
トード、と呼ばれた緑色の機体は、バケツからガーベラを数本取り出して常連らしい女に見せる。代表として前に出た花の茎は太くまっすぐ伸びており、赤く大輪に咲いていた。
「トードちゃんとスカルちゃんが作る花は、いっつもいいものばかりだから飾るのが本当に楽しくってねぇ。花なんてちっともわからないうちのダンナも、綺麗って言ってくれるのよぉ。」
「そうだべか。それを聞いてオラもスカルも嬉しいだよ。ほら、花も嬉しいって。」
なあ、と後ろの白いロボット――スカル、にトードは声をかける。彼は急に話をふられてびっくりしたのか、何も言わずにぎょっと後ろに仰け反った。
「うっふっふ、スカルちゃんはいつも通りねぇ。じゃあそのガーベラとかすみ草頂戴。ああ、それからヒマワリの種、あるかしら?」
「ガーベラとかすみ草、それからヒマワリの種だべ?うん、スカル、ヒマワリの種出してクレ、そこの箱に入っているダ。」
花を新聞紙で包むトードの指示を聞き、スカルは脇に置いている箱から紙袋を取り出す。紙面にはподсолнух(ひまわり)と書いてある。
「はい、種……。」
スカルが出した声は低く、子供が聞いたら泣き出してしまいそうなものだったが、買い物客の女は朗らかに笑っていた。
「ありがとうね。貴方達の作るヒマワリの種はおいしいからねぇ。うちのダンナも食べるから減るのが早くて……。」
「トードは作るのがうまいから……ダイブも……家の奴も夢中で食べてるよ。」
「あらそうなの。じゃあ買うのちょっと自重した方がいいかしら?スカルちゃんのところも食べてるんでしょ?」
「いや、買ってくれ。残しておくと、あいつが全部くっちまいそうだ。」
この前も一箱つぶしたんだ、と付け加えると、買い物客はケラケラと声を立てた。
「今日はちょっと残っただナー。お疲れ様だべ、スカル。」
太陽が頭上に上り、通りの人が少し少なくなった頃。二人の前にあった花の山はなくなり、わずか数本が寂しそうにバケツの水に浸かっているだけとなっていた。
「来週にはバラの花も咲き頃だし、種も取れるからまた人が増えるベ。頑張ろうナ。」
パラソルを片付けながら話すトードの脇で、スカルは残った花を一本一本抜き取り、新聞の上に寝かせてゆく。
細いかすみ草を摘み、先に置いたガーベラと見比べる。
「どうしたダ?」
スカルの返事がないことに気づいたトードは彼の方を向く。スカルはじっと新聞の上に横たわるガーベラを眺め、そして独り言のように呟いた。
「やっぱり、トードの作った花は力強いな。」
売れ残ったガーベラは、買われていったものに比べてはわずかに細いが、それでも緑の茎は太く、花びらの色は濃く、力強く咲いている。
「でも、スカルの花は、繊細でかわいいベ。」
トードはスカルの手の中にあるかすみ草を見つめる。折れそうなほど細い茎の先にある花は小作りで、白く、透き通るような色で咲いている。
「きれいダベ。」
「きれいだな。」
二人はほぼ同時に同じことを呟く。それに気づき、トードは笑い、スカルは恥ずかしそうに目を逸らした。
「お帰りなさい!トード、スカル!」
研究所に帰った二人を、カリンカが元気の良い声で迎えてくれた。
「お帰りなさい、暑かったでしょう?」
遅れてブライトもやってくる。その手には冷やしたおしぼりが二つあった。
「ただいまダ。ブライトありがとうダベ。」
両手に持っていたバケツを片手にまとめ、トードはブライトからおしぼりを受け取る。
「お嬢さん、これ。」
「ん、なあに?」
スカルはカリンカに新聞紙で包んだ花束を渡す。
「売れ残りで悪いけど。」
渡された花束を大事そうに抱え、カリンカはにこりと花も綻ぶ笑顔を見せた。
「そんなことないわ、ありがとうスカル。それじゃあこれは、ダイニングのテーブルに飾りましょう。」
今日のお昼は野菜スープよ、とカリンカが手を引っ張る。スカルは脇に抱えていたビーチパラソルを壁に立てかけ、彼女の後をついていった。
おわり
設定を作ってからの方がいいのか、話を作ってからの方がいいのか迷いましたが、話が先にできたので投下。
以下、勝手な自分設定のまとめです
・スカルは心が未発達の状態。心を育てるために花を育てている。
・スカルの花育てに付き合っているのはトード。二人は仲が良い。
・人付き合いの勉強のために、自由市のようなところで花を売っている。
・スカルはかすみ草やスイートピー、バラみたいな花を育てるのが得意。トードはガーベラやヒマワリを育てるのが得意。
・ダイブはひまわりの種が好き。
・コサックナンバーは全員食事ができる。
スカルが花を育てるまでに至った経緯もさわり部分を書いているので、近いうちに完成させたいです。
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