後から来た者が過去の事を知るには、先にいた者にそれを尋ねるか、記録を見る、或いは読むと言った具合に手段が限られているものである。
新しく作られたスカルが、コサック家の過去を知るためにブライトの隣でアルバムを見ていたのは、至極自然な事であった。自分より小さい機体の兄が語る思い出話を聞きながらページを捲っていくと、ある所でその手が止まった。
「これはなんだ?」
彼が指差した写真には、ブライトとトード、それと今よりもずっと幼いカリンカが写っていた。この二機と一人が写っている写真は他にもあるのだが、これのもっとも特異なのは、二機が後ろを向いて困った表情をしている所である。
これ以外の物、例えば隣にある写真に写っている彼らは、正面をきちんと向いている上に笑顔を見せている。別のページを見渡してみても、こんな表情を浮かべているのはこの一枚しかないのである。
スカルはブライトの返事が来る前に、更に写真を舐めるように見つめる。時間が経ったせいか、それとも当時のカメラの具合か、幾分か不明瞭ではあるが、彼ら二機の腰部分に何か描かれているのが見て取れた。グネグネと蛇がのた打ち回ったような線であるが、それらはある物の形を取ろうとしているようでもある……。
「それはね、お嬢様が僕達にラクガキした時の写真だよ」
ラクガキ、とスカルが言うとブライトは大きく頷いた。その顔は懐かしんでいるようで、穏やかな笑みを浮かべている。
「その頃のお嬢様は絵を描くのが好きでね、紙だけじゃなくて僕達のお尻の所にまで絵を描いて下さったのさ」
「それじゃあイタズラじゃないのか?」
感心しない口調でスカルは言うが、ブライトは首を振ってそれを否定する。
「それがね、『私のパンツにはクマさんが描いてあるのに、ブライトとトードのパンツには何もないなんて、かわいそうじゃないの。だからクマさんと、アヒルさんの絵を描いてあげたのよ』って」
可愛いでしょ? と付け加えてブライトは更に笑った。彼の言葉を頭に写真にある絵を見直せば、なるほど、確かにクマとアヒルに見えなくもない。
「イタズラに見えるかもしれないけれど、その時のお嬢様が精一杯考えた行動はとても嬉しかったんだ。……まあ後始末は大変だったけれどね」
ブライトの言葉を聴きながら、スカルはもう一度写真を眺める。満面の笑みを浮かべるカリンカの後ろにいる二人の顔は苦笑いそのものだが、どこか嬉しそうにも見えた。
「もし、俺がこの時にいても、ラクガキはされなかっただろうかな?」
「うーん、わかんないよ? もしかしたら、……そうだね、髪の毛とか帽子の絵を描かれていたかもしれないね 『スカルは頭がつるつるで寒そうだから』 って言ってさ」
「ただいまぁ、あら……」
声と共にドアが開き、入ってきたカリンカの顔が赤くなった。
「もう、スカルったら!」
彼女は早足で二人が座っているソファーに近づくと、スカルの手からアルバムを奪い去った。
「ダメじゃないの! お姉さんの許可なくアルバム見ちゃったら!」
これなんか、黒歴史なのに!
叫んだ彼女の言葉を、黙ったままうんうんと頷いてスカルは聞く。ブライトは二人のやり取りに口を挟まず、微笑を浮かべて眺めていた。少女へと成長した彼女に、幼い頃の姿を重ねながら。
終わり
ラクガキの時にはドリルもいましたが、彼はパンツではなかった為に被害を免れました。それはそれで寂しかったみたいです。
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