「はい、出来上がり」
その声と共に目の前にある鏡を見る。映し出されているのは、真っ白いシーツを幾枚もドレスのように巻きつけている自分の姿だった。
「うふふ、なかなか素敵よ、ポンプ」
もう一枚をポンプの頭に被せ、背の高いスツールに座ったスプラッシュは微笑んで顔を覗かせる。そんな彼女もまた、ポンプと同じようなドレスもどきを身に纏っていた。
「素敵、ですかねぇ……?」
困った表情を浮かべたまま、ポンプはスプラッシュの方を向く。彼と対照的に、彼女は朗らかに微笑んでいた。
たまたま、だった。ライト研究所を訪れ、偶然休暇だった彼女にちょっと付き合って欲しい、と言われて部屋に行ったポンプを出迎えたのは、山のように詰まれた白いシーツだった。それをスプラッシュに巻きつけたり、巻きつかれたりして、気づけばこんな風になっていた。
「これじゃあまるで、ウェディングドレスだ」
頭を覆うシーツを引っ張りながらポンプは唇を尖らせる。ただの布を用いたからそのものとは言いがたいが、あきらかに花嫁衣裳だった。
「ええ、貴方の言うとおりウェディングドレスなの」
は、と疑問符をつけてスプラッシュの方を向けば、彼女は小首を傾げてひどく楽しそうだった。
「気が向いた時に、こうやって遊んでいるのよ。いつも一人だから、たまには誰かを誘ってみようと思ってね、そうしたら貴方がいたってわけなの」
「そんなぁ、僕は一応男性型なんですよ」
彼女の目の前であえて乱暴に腰を下ろす。風でふわりと浮いた裾を手で押さえ、ぶすりとした表情を作った。
「別にいいじゃないの、どうせ遊びなんだから、本物じゃないんだし」
「そりゃ、本物じゃないですけど……」
笑うスプラッシュの顔に一瞬影が射した。
「本物に袖は通せないんだから、せめて偽者でもいいから、着てみたいじゃない」
反論の言葉が喉に詰まって消える。本物を着る事ができない、それはロボットだからという理由ではない。現にロボットであっても、人間のように結婚式を上げたという話がある。ライトナンバーズである彼女ならば、それをする事は容易であろうに、それができないと言うのは。
どんな顔をすればいいのかわからなくなる。好きあっていて、望んでいると言うのにそれが出来ないという彼女の心が、ポンプにも少しだけ理解できたからだ。
「ねえ、ちょっと、飾りもつけてみない?」
泣き笑いのような顔をしたスプラッシュは、脇に置いてある小箱を自分の方に引き寄せ、中に入っているアクセサリーを取り出す。
置かれていく細々としたものを見つめるポンプの顔は先ほどと違い、真剣で少し切なげだった。
終わり
シーツでドレスってネタは、本物が着られない切なさが詰まっていて好きです。もちろん、そのままほのぼのてのもいいんですが。
このネタでイラストを描いていて保存ミスって消えたショックが未だになくならない……。
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