「タイムマン×面影双紙」
面影双紙は昭和初期に発表された短編。
大阪の古い薬問屋で生まれた息子(以下「私」)の両親は夫婦らしくない夫婦だった。「私」が10、11になった時、父は店で薬だけでなく人体の骨格模型も扱い始め、「私」の父と母が少し悶着を起こす。時同じくして、道頓堀の芝居小屋に福三郎という若女形が東京から帰ってくる。芝居好きな母は彼を贔屓し、こっそりと彼に――時には息子の「私」をつれて――会いに行くようになる。その少し後、父は家出をし、店にある人体模型が届けられる……。
語り手の「私」の関西弁がねっとりとしていて、非常に雰囲気があります。後年の作品は、浮世離れしたような話でもどこか現実味がありますが、面影双紙含めこの時期の話にはそれらが希薄で、奇妙な浮遊感があります。それは登場人物の気持ちも、何もかもが理詰めで解き明かされていないからかもしれません(事実、この面影双紙でも一つの謎が明瞭な答えもないまま物語が終わっています)
語り手の「私」の子供時代がなんとなくタイムマンとダブります。どこらへんにダブる要素があるのか、と言われたらどう答えたらいいかいまいち掴めないのですが、持っている空気とか……かしこい所が似ているのかもしれません。「私」は非常にかしこい子供です。そしてタイムマンもかしこいです。
ただ無邪気に動ける環境があるだけ、まだタイムマンには救いがありますので、もし彼は完成体となったとしても、「私」のような性質を持っているかまではわかりません。
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