泡潮
泡視点
スプさんに試作機時代があり、その時は歩くことができたという捏造設定あり
[1回]
ずっと以前に、ラブレターをもらったことがある。
と言っても、小さい女の子からのだけれど。
歩けるように改造してもらってから、僕は歩行訓練のために浜辺を歩いていたんだけど、その時に小さい女の子のロボットに会ったんだ。遊んだり、色々話しているうちに懐かれたみたいで、帰る時に、また会ってくれる? と言われた。
ここに来たのは本当に気まぐれで、僕はこれっきりにするつもりだったんだけれど、なんだかんだでそこに通っていた。
その日も、いつものように遊んでいたんだけれど、急にその子が黙り込んで、どうしたの、って声をかけたら突然泣き出したんだ。それで少し落ち着かせてから理由を聞いたんだ。
彼女は試作機で、昨日、完成体が出来上がったらしいんだ。完成体になった時の勤め先はもう決まっていて、そこに行ったら今までみたいに自由に出歩くことができなくなる。そうなったら僕に会う事ができなくなる、それが悲しかったらしい。
ひとしきり泣いたその子は、今日でお別れだから、って僕に手紙をくれたんだ。くしゃくしゃになった青い折り紙に、
「遊んでくれてありがとう、お兄ちゃん大好き、大きくなって会ったら、お嫁さんにしてね」
って文章と、隅っこに僕と、ウエディングドレスっぽいのを着た女の子の絵が、青いクレヨンで描いてあったんだ。
「……それが僕がもらった、最初で最後のラブレターなんだよ」
そう話し終えて、僕は顔を上げる。話し始めの時、頭を上げていたスプラッシュは、俯いてフルフルと小さく震えていた。
「どうしたの? 何か……」
「その……そのラブレターくれた女の子の姿、どんなだったか、覚えてる?」
スプラッシュに尋ねられ、僕は回路の奥深くに仕舞い込んだ記憶を引っ張り出す。思い出は長く仕舞い過ぎたせいで掠れてしまい、ちぎれてぼろぼろになっていたようで、うっすらとしか思い出すことができなかった。
「ええっと、白いワンピースを着て、ええっと、青い髪というか、頭をしていて……顔まではちょっと……」
「それ……たぶん、私……」
「え?」
思わずスプラッシュの方を向くと、彼女は頬を赤くして僕を見ている。
「ライトナンバーズで水中専用は初めてだから、って私には試作機期間があって、その時は私、足があったの。それで、歩行訓練中に親切な人に会って、その人、すごい優しくて、色々教えてくれて、だから、私、好きになって、将来はその人のお嫁さんになるって、いって、最後の時は、手紙まで書いて、だから……」
恥ずかしさが頂点に達したらしく、スプラッシュは黙り込んでまた顔を俯けてしまう。僕は、というとあの時の小さい子が目の前にいたという事実に驚き、体が動かなかった。聞こえてくるのは回転数が上がった動力炉の音だけだ。
「……なんていうか、その……」
ようやく体が心に追いつき、僕はスプラッシュの細い腰に腕を回す。ひどく熱く感じられるのはお互いの熱量が合わさったせいだろう、きっとそうに違いない。
「……ラブレターをくれた相手にまた会えて、好き合うようになるなんて、思わなかったよ」
「……私だって、送った相手がこんな風に私を好きになってくれるなんて、思わなかったわ」
スプラッシュは僕の肩に額を擦り付け、体を更に密着させる。動力炉の回転数は更に上がり、生み出した熱は体を燃やしてしまうんじゃないかという位膨れ上がっている。僕はスプラッシュの口をマスク越しで塞いでから、彼女の肩に顔を埋めた。赤い糸があるとしたら、こんな風に二人を繋げてしまうのか、と思いながら。
終わり
「ところで、手紙はどこにしまったの?」
「……たぶん机の中だと思うけど……よかったら、探してきてあげようか?」
「……やっぱりいい!」(現物見たら、今度こそ顔から火が出るもの……)
PR