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【2024/04/25 10:25 】 |
合わせの羊羹(海王星波)

海王星波。ようかんを作っているだけの話。



拍手[1回]


 遊園地の仕事をしていると、季節ごとに敏感になるものである。クリスマスならば、サンタの帽子やトナカイの角を付けて受付や案内を行ったり、正月なら、クリスタルやジャイロなど、比較的人型に近い物は着物のような物を纏ったり、ナパームやストーンのような大柄の物は、正月っぽい物を書いた腕章をつけたりする。チャージなぞ、胸元に注連縄飾りをぶら下げるなどと言う事もしていた。
 便所掃除と言う、完全裏方の仕事をしているウェーブもまた、そのような季節にあった格好や振る舞いをしている。他の者の様に人目に付きやすいわけではないので、トナカイのベルを下げたり、腕章を付けたりする程度であるが。
 夏休みが終わり、一つの喧騒が過ぎ去った9月の頃、ウェーブは基地の台所に籠って、一人黙々とさつま芋やらかぼちゃやらを剥いていた。あの武器となっている両腕でどうやって、と思われそうだが、それぞれの発射口に、お玉やら包丁やらを差し込んで行っているのである。ハンドパーツに変えてしまった方が楽のようであるが、慣れていない彼にとっては、普段の腕の方がずっと扱いやすいのである。
 吹きこぼれた音を耳にした途端、剥きかけていたさつま芋をテーブルに置き、鍋へと駆け寄った。弱火にして、蓋を開けると、蒸気と共に甘い香りがふんわりと立ち昇る。柔らかな匂いに溜め息を吐き、ウェーブは竹串を使って中の物の固さを確かめる。抵抗なく刺さったその様子に満足し、火を止めて鍋を下ろした。
 水切りをした後、鍋の中の物をマッシャーで丁寧に潰し、裏ごしをした後砂糖や牛乳をその中へ入れ、しゃもじで丁寧に混ぜ合わせる。程よい固さになった辺りで、ウェーブはラップを敷いたタッパーの中へそれらを入れ、形を整えた後、容器ごとまな板の上でひっくり返す。ラップを引っ張りながらタッパーを持ち上げると、角の丸い四角となった物が出来上がった。
「はあい、アナタ、やってきましたよー」
 出来上がった物に包丁の刃先が入った時、後ろからいつも耳にする、のんびりとした声が飛び込んできた。
「来てくれたか」
 少し後ろを向いた後、四角い物を切りながら、ウェーブは愛想なく言葉を返す。つれないなぁ、と笑いながら、ネプチューンは彼の隣に立った。
「お料理……お菓子ですか。かぼちゃ……羊羹か何か?」
「うん。遊園地のレストランで出す限定メニューの試作品」
 四角に切り分け、ウェーブは出来上がった物の内、一本を更に細かく切って小皿の上に乗せ、爪楊枝を軽く突き刺した。
「味見してくれないか」
 羊羹が載った物を、そっとネプチューンに差し出すと、彼は目を丸くした挙句にキラキラと輝かせてきた。
「ワタシが、ですか?」
「……しないの?」
 低い声を出し、今にもひっこめそうな雰囲気を漂わせせる彼に気づき、します、と慌てて呟いて、ネプチューンは小皿を受け取った。
「限定メニューの試作って、あれ、バイトの方でもいいんですか?」
「実際に作るのはそりゃ、レストランのコックとかだよ。オレ達はあくまで案を出すだけだ」
「なるほど。しかしアナタがやる気になるなんて珍しいですね」
 首を傾げて尋ねると、ウェーブはふいっと目を逸らしてしまった。
「……採用されると、ボーナスが出るんだよ」
「ああ……そりゃ、そうか」
 納得のいく答えを聞き、半魚人は小さく微笑む。それなら、吝嗇家の彼が積極的に動くわけである。
 そのような事情なら、こちらも真剣にならねばならない。傍らの椅子に腰を掛け、ネプチューンは再び小皿の物に目を向ける。四角く切り分けたそれはまるきり羊羹であるが、色はオレンジで、切り口の質感は芋類独特のざらつきがあった。
 爪楊枝が刺さっている物を口の中に入れる。こしてはあるものの、寒天などの入っていない為か、もったりとした重い触感があるのは否めない。ネプチューン自身は今口にしている物の方が好みであるが、世間に出すならば口当たりが滑らかの方が良いのかもしれない。
 無言の試食の中、ネプチューンは突然咀嚼を止め、残りの羊羹を眺め始めた。上から下から、皿の上の物を見つめ、小さく唸り声を上げる。彼の姿を見ながら、ウェーブは珍しく、目を細めてニヤニヤとほくそ笑んでいた。
 観察にどれほどかかったか。ようやく気が済んだか、ネプチューンは顔を上げてウェーブの方を見た。
「かぼちゃだけじゃないですね、これ」
 確認の為、一切れを口に入れて舌先で転がす。ぽろぽろと崩れるたび、口腔内に素朴な甘みが広がるが、かぼちゃのそれよりも強い物が感じられるのだ。
「……さつま芋、ですか?」
「……当たり」
 そう呟くと、ウェーブは生のさつま芋を一つ手に取り、にんまりと笑う。
「かぼちゃとさつま芋、一緒に茹でて潰して混ぜたの」
 なるほど、と呟いて、もう一度視線を羊羹に落とす。実の色は確かにかぼちゃのそれだが、よくよく見れば、普通よりも淡くなっているのだ。
「さつま芋のおかげで、かぼちゃだけよりも甘くなって……でもなんでさつま芋なんて混ぜたんです?」
 尋ねた途端、ウェーブは気まずそうに眼を逸らしてしまう。こちらも首を傾げて覗き込むが、彼は首を竦めてほんの少し後退った。
「……さつま芋の方が、かぼちゃより安かったから」
「……ああ……」
 かぼちゃのカサを増す為に混ぜた、とはっきりした事は言わず、ネプチューンは笑うだけで済まし、再び羊羹を口にする。気まずい事だったのか、ウェーブの目の周りが、ほんの少し赤くなっていた。
「さつま芋は秋の食べ物ですから、いいと思いますよ。個人的には蒸かした方が、甘みが強くなるような気がしていいと思うんですが」
 それ以上深くを探らず、彼は食べた感想を的確に述べてゆく。そうした方が、ずっとウェーブにとって良いと思ったからである。そんなネプチューンの態度に気を許したようで、簡素なエプロンをつけた彼は表情を緩め、傍らに置いていたメモにアドバイスを書き込んでゆく。
「蒸かしか……うん、そっちの方が、水っぽくならなくていいかもな。薄切りにすれば、時間も早く済むだろうし」
「あと、ワタシは今の方が好きなんですが、人によっては滑らかな方を好みますから、寒天とか使ってみたら……」
 そこまでを口にして、男は口を閉ざしてしまった。どうしたのか、と今度はこちらが首を傾げると、彼はにこりと笑って返してくれた。
「いえ、ね。寒天入れない方が、きんつばにできるからいいかなあって。粉つけて……こう……」
 転がすような仕草を見せ、半魚人はにんまりと笑った。
「寒天も経費削減のつもりだったが……なるほど……そっちの方が売れ残り……まあ、とにかく、無駄が出ないで済みそうだな」
 不穏な事を呟くウェーブに苦笑を浮かべ、ネプチューンはまた一つを口に入れる。案を出し、また意見を捏ね合わせ、二人は新メニュー作りに勤しんでいた。

 それから一週間ほど経った頃、所要で五期ナンバーズが使用している生活棟を訪れたネプチューンは、共有スペースでへこんでいるウェーブを見つけた。
「……どうしたんです、ウェーブ」
 机に突っ伏した彼に声をかけるが、反応は鈍い。丸い肩にそっと手を置くと、ウェーブはようやく顔を上げてくれたのである。
「……ダメだった」
「ダメ…?」
 呟いて、ようやくネプチューンは先週の出来事を思い出し、触れた手をそっと放した。
「いい線まで言ったんだけど……パフェに負けた」
 ボーナス手に入ると思ったのになぁ、と呟いてまたウェーブは机に突っ伏してしまう。自信が大きすぎたのだろうか、ボーナスがもらえなかったショックから未だに立ち直れないようである。
「……それは残念でしたね……でも、またチャンスはありますよ、きっと」
 右腕を手に取り、表情を和らげて顔を覗き込むと、ウェーブは頬っぺたをテーブルにつけて、のろのろと起き上がった。
「……だな……次はクリスマスにやるって言っていたし……そん時、また手伝ってくれるか?」
「そりゃもちろん! アナタのお手伝いができるなら喜んで!」
 破顔して答えるネプチューンに、嫌味な奴、とウェーブは呟く。しかし言葉と違い、表情は柔らかである。
「じゃあ……芋とかぼちゃ、まだあるから処分するのに手伝ってくれるか」
「いいですよ、次は餃子の皮で包んで揚げたのにしましょっか」
 椅子から身を起こしたウェーブの腕を取り、ネプチューンは額をくっつける。お返しに、ウェーブはつん、と軽くそれを押し返すと、二人は連れ立って台所へと向かったのである。

終わり
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【2014/10/07 19:54 】 | SS | 有り難いご意見(0)
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