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【2024/11/25 19:27 】 |
びっしりと(クラッシュとボンバー)
クラッシュとボンバーの、そんなに怖くない話

拍手[2回]


 クラッシュの好きな事は、物を壊す事だ。己が参加した、第二次世界征服計画の際には、物を壊せるだけ壊し、非常に満足していたが、計画が失敗に終わり、一応政府の監視下に置かれている今は、それを満足にできないでいた。
 さっぱりした性格の彼は、この事態をまあしょうがない、と受け入れてはいるが、それでも破壊した時の爽快感が恋しい時もある。
 そんな時、彼はロックマンに解体などの仕事がないか、尋ねる事にしていた。人間の為、と言うのはいささか癪ではあるが、これは「ツミホロボシノホウシカツドウ」にあたり、いくばくかの賃金や世間への点数稼ぎとなり、破壊衝動を満たす以外の益ももたらしてくれるのだ。
 そのような経緯で、クラッシュはロックマンが持ってきてくれた仕事を張り切って行っていた。今日の物はいつもの開拓作業ではなく、彼の大好きな建物の破壊、もとい解体である。あれこれ堅苦しい決め事があるが、久しぶりに建物が壊せるのだ。
 埃っぽい廊下を、彼としては珍しく、鼻歌を歌いながら歩いてゆく。その足取りは軽く、滑るようであった。ふと、目に着いた窪みに、火薬量を大分減らしたクラッシュボムを放り投げようとした途端、ポカリと頭を叩かれた。
「アタ」
「こら、気まぐれに爆弾を置くなよ!」
 反射的に叩かれた部分を擦り上げながら、後ろを振り向くとそこにはボンバーマンが、少し笑ったような顔をして立っていた。
「あちこち置きたい気持ちはわかっけど、こっちはもう十分だからさ。あっちの方に、代わりに置いてくれねえか?」
「ん」
 その言葉に素直に頷き、クラッシュは指示された方へと歩いてゆく。足取りの調子を察したか、ボンバーは急ぎ足で彼の後ろを追いかける。
 ボンバーマンは、ロックマンの兄弟、つまりライトナンバーズである。本来は土地開拓の仕事が専門であるが、クラッシュが手伝いで現場に入る時は、監視役として共に赴いていた。
 クラッシュはボンバーマンをモデルに作られている、と言う所からか、それともボンバーの性格からか、二人の仲はさほど悪くなかった。基本的に口を開くのはボンバーばかりであるが、彼の話を聞くクラッシュの顔に、つまらなさは全く宿っていなかった。
 薄暗く、僅かに蒸し暑い廊下に二つ目のクラッシュボムを設置し、クラッシュはふ、と顔を上げた。
「ここって、なんの建物なんだ?」
 質問を投げかけた後、クラッシュはキョトキョトと辺りを窺う。無愛想な壁は、生前は真白いペンキが塗られていたのだろうが、今は薄汚れて無様であった。
「ここか? 確か……、アパートだったはずだ」
 珍しく質問をするクラッシュに少し戸惑いつつ、ボンバーは答えを口にした。
「アパート、て人間が住む場所だよな? ……でもなんか、使っていた感じがしないな」
 ボンバーの言葉を念頭に置き、もう一度寒々しい天井や壁を見つめるが、最初に抱いた印象からの変化はなかった。
「何度か、アパートとか、マンション、とかを壊した事があるけど、そっちはずっと、使い込まれている感じがしていた。でも、ここにはそんなんがちっともない」
 通常、人の住んでいた建物には、ペンキの塗り替えや、備品の交換など、手を入れた事による歪みがそこここに見られるものである。それらは古さの証でもあるが、同時に愛されてきたと言う勲章でもあるのだ。
「まあ……でも、たまにあるぜ。こういう建物はさ。日当たりが悪いとか、交通の便が良くないとか、小さな理由が堪って、耐用年数になるまで人が入らないって事が」
 自分の言葉に納得する為か、ボンバーは腕を組んでから一つ頷いた。
「ここら辺一体は新興住宅地だったけど、このアパートがある所はバス亭や駅からは微妙に遠いからな。それが理由で住む人が少なかった、のかもしれないな」
「ふうん、小さい事を気にするんだな、人間て」
 メタルやフラッシュみたいだ。
 呆れた口調で小さく兄弟の名前を口にするクラッシュを見て、ボンバーはにんまりと頬を引っ張り上げた。
「その小さい事で、成り立つ仕事ってのもあるもんさ。さ、そいつを設置したら、もう終わりだ。急いで外に出ようぜ」
 ボンバーの呼びかけに素直に頷くと、クラッシュは急いで立ち上がり、彼の後を追ったのである。

 威勢の良いカウントダウンの後、カチリ、とスイッチの小さな音が発せられる。それから少しも経たぬうちに、轟音と震動、そしていくつもの煙が立ち上り、先ほどまで威風堂々と言う具合に立っていた建物は、あっと言う間に地に膝をつける。
 本当はもっと火薬の量が欲しい、とクラッシュは思うが、口には出さず、久しぶりの光景に目を輝かせていた。浴びる爆風も心地よく、自然と目が細くなる。が、それはほんの少しの間だけだった。
 振動が微かに残る中、あと少しであんぜんになる、とボンバーたちが息を吐こうとしたその途端、クラッシュが安全地帯から飛び出し、鉄砲玉のように、ビルのあった場所へと向かっていったのだ。
「あ、コラ、バカ!」
 彼の行動に気づき、ボンバーはすぐに彼の後を追った。煙の色はまだ濃く、人間では、クラッシュを追う事は不可能だからだ。
 重量のあるクラッシュは、走る速さが速いわけではない。が、それはボンバーも同じ事である。絶妙な距離を保ちながらかけっこを続け、崩壊したビルの膝元で、ようやくボンバーはクラッシュを捕まえた。
「だめじゃねえか、安全確認も取れないうちに来るってのは……」
 片腕を掴み、引き戻そうとするものの、クラッシュはがんとして動かない。彼はじっと先を見据え、ゆっくりと前方を指した。
「まだ、壊れていない場所がある」
「そうそうまだ壊れていない……って、え?」
 クラッシュの言葉に驚き、思わず彼が差した方に目を向ける。濃い煙の幕が下がっている為、微かにしか見えぬが、多くが砕けて散らばる中、壁らしきものがまだしっかりと残っているようである。
 少ない情報の中、よくわかったな、とボンバーは感心し、クラッシュに目を向ける。彼はひたすら、煙の向こう側を窺っていた。
 土埃が薄まり、崩落も収まりつつある頃合いを見計らい、二人は壁のある方へと向かった。瓦礫を踏み砕いた辿り着いた向こう側には、クラッシュの言葉通り、壊れていない壁が――部屋が残っていた。
 広さは三畳ほどだろうか、寝転べばあっという間に埋まってしまうほどの狭さのそこを囲むコンクリートには、ドアも窓も、何一つもなかった。崩れてしまった部分に、と思って眺めるが、それらしきものはどこにもない。
 嫌な物を感じながら、二人は空間を覗き込む。日も差さなかっただろうその中は、床と言わず、壁と言わずびっしりと、大量の紙が隙間を作らぬほどに貼りつけられていたのである。


「それでさ、工事現場の人がそこに来たんだけどさ、その中見た途端、真っ青になったんだ。なんでも貼ってある紙は、お札って奴なんだってさ」
「へえ」
 コードを繋いで仕事をするフラッシュの後ろで、今日の出来事を語り終えたクラッシュは、E缶に入れていたストローの先を噛みつぶした。相槌の様に聞こえた声に熱がなくとも、彼はさほど気にならないらしい。
「業者の人達も、そんな部屋の事なんて知らなくってさ、結局、そこは別の日に潰すんだってさ。おぼうさん、って奴を呼ぶんだって」
「ふうん、ま、こういう仕事は、そういったもんを気にするもんだからな」
「へーえ、別にそんな奴呼ばなくてもただぶっ壊せば……ん?」
 通信でも入ったのだろうか、不自然に言葉を切り上げ、クラッシュは黙り込んでしまう。数刻の沈黙の後、フラッシュはゆっくりと後ろを振り返った。
「誰からだ?」
「グレネードから。すっごい爆弾作ったから、来てくれってさ」
 うきうきとした声を出し、クラッシュは部屋から出てゆく。一人残ったフラッシュは、彼が残していった空き缶に気づき、やれやれと呟きながらそれを片付け始めた。
(……出入り口のない部屋に、大量のお札、ねえ)
 その建物に過去、何があったのか、今では知る由もない。……本当に、ただ何の意味もなさない、誰かの大がかりで、悪趣味すぎる悪戯なのかもしれない、が。
(クラッシュが、その部屋にあった何かを連れて来ていたりして……)
 自分の空想が過ぎているだけだ。よぎった考えを一蹴し、フラッシュはへっと唇を吊り上げた。
「アホみたいだな、科学万能で作られた俺がこんな考えをするってのもさ……」
 身に沁みついた寒気を振り払い、空に近いE缶をゴミ箱へと投げ捨てる。スチール製のそれは壁に当たり、見事にゴミ箱から外れてしまったのだった。

終わり


 どこからも入る手段のない、隠し部屋みたいなのってなんて名前だったか忘れました。正式名称的な物があった気がするんですがね。
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【2014/08/05 21:53 】 | SS | 有り難いご意見(0)
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