「エレキマン×黒猫亭事件」
黒猫亭事件は昭和二十二年に発表された中編です。角川文庫では、本陣殺人事件と共に収録されています。
戦後の混乱真っ只中の、昭和二十二年。東京近郊のG町銀座から少し離れた場所にある、改装中のバー「黒猫」の庭から、女の腐乱死体が発見される。死体は当初、バーの前経営者の愛人の物かと思われた。しかし捜査の途中で、それは前経営者の妻ではないかという線が浮上する。妻か、それとも愛人か――状況が二転三転し混迷を極める中、親友の依頼を受けた、金田一耕助が登場する。
金田一耕助シリーズ三作品目(時系列としては八番目だったりします)冒頭では横溝先生(作中ではYさんと表記)と金田一耕助の出会いが書かれていたり(本陣は横溝先生が、事件に立ち会った人物の手記を元に小説家した、という形態をとっています)、金田一さんの親友にしてもう一人のパトロン、風間俊六さんが登場したりと、色々な物が固まり始めている話でもあります。
肝であるトリックも、納得が出来てすごく面白いです。途中で部分部分には気づけても、事件の全容は最後まで読まないとわからないんじゃないかな、って気がします(これは私が推理しながら読むタイプの人間でないから、かもしれませんが)
この話は個人的に好きな話です。トリックが面白いとか色々あるんですが、なにより戦後と言う、大きな出来事が終わった後の何事も落ち着かない、独特の浮ついた雰囲気が非常に感じられるからです。後の作品でもそういったものはふっとあったりするんですが、この話は特にそれが強い気がします。
トリックも雰囲気も良くて、なおかつ物語も読みやすい長さなので、ぜひ読んでいただきたい一作です。
なお、この話はドラマ化、漫画化されています。私が見た事あるのは漫画の、JETさんが描いた物だけですが、これもまた好きです。書きたい部分はあれこれありますが、事件のキーワードになっている黒猫が、金田一さんになついちゃってこの当時居候している所にまでついて行っちゃった辺りとか(なお、この黒猫、後に漫画化された悪魔が来たりて笛を吹くにもちょっぴり登場していて嬉しかったです)ただ、全体的に女性的な感じになっていますから、そこで好き嫌いは分かれると思います。角川のASUKAコミックスで出ていましたので、古本屋に行って見つけたらちょっとだけでも一読してみてください。
さて、何年振りかのあれこれ、今回は切り絵にしてみました。実はこっそり黒猫がいるんですが、これ、黒猫に見えない気がしてきました(エレキの腕の辺りにいます)全体的に黒々とした感じで、と思って背景を切り抜かずにいたんですが、あんまりにも味気なさ過ぎて、血痕を少し散らしてみたんですが、これも見えない……。相当、エレキさんに気の毒をさせてしまった気がします。もっと派手にしてあげればよかったです。
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